日本林学会大会発表データベース
第114回 日本林学会大会
セッションID: J25
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T9 熱帯林の再生--多様な森林の価値をどう保全し再生させるか--
熱帯地域における地域住民による植林活動の奨励策の比較
*古家 直行
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キーワード: ラオス, タイ, 植林奨励
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抄録
1.背景と目的 今後さらなる熱帯荒廃・衰退林のリハビリテーションの必要性が増大することが予測される中、広大な土地のリハビリテーションを行うためにはこれまでの各国・各機関におけるトライアルについて知見をまとめておくことは重要なことである。そこで本研究においてはまず東南アジアのタイとラオスの二国を対象として、そこでこれまでに行われた、または現在進行中の地域住民参画による植林奨励策についてそれぞれの奨励策の持つ特徴を比較・整理し、問題点を抽出しながら、いかなる仕組みづくりが必要なのかという要点をまとめることを研究の目的とした。2.方法 本研究においてはタイ、ラオスそれぞれ2植林プロジェクト、計4プロジェクトについて比較検討を行った。本研究では各植林奨励策に関する文献調査及び担当者への聞き取り調査、参加した住民への聞き取り調査によって情報を収集し、これらをまとめた。3.奨励策の概要 各植林奨励策の概要は以下の通りである。a.キャッサバ転換早成樹植林プロジェクト キャッサバ植栽地における地力の減退が問題となり、この土地をユーカリなどの早成樹の植林地に転換しようというプロジェクトである。この参加者には苗木や肥料が無償で提供され、低い利子率での融資についても受けることが出来る。b.3,000バーツ補助植林プロジェクト 植栽及び管理費用として単位面積(1rai=0.16ha)当たり3,000バーツを800,700,600,500,400と5年間に段階的に分けて補助するというプロジェクトである。当初は郷土樹種のみが認められていたが、徐々に対象を広げ、早成樹植栽を50%まで認める、参加者の最大植栽可能面積を拡大する、などの変遷が見られた。97年を境に予算措置が大幅に縮小されたが造林面積としては非常に大きな成果を上げた。c.ADB(アジア開発銀行)短期融資早成樹植林プロジェクト 植林を行う農民に対し、8年間低い利子率で融資を行うというプロジェクトである。植栽樹種はユーカリを中心とした早成樹であり、融資期間はこの植栽した早成樹の伐期として見込まれている。参加者はこの収益により借り入れ金の返済を行うことが出来る。d.FORCAP(JICAラオス森林保全復旧計画フェーズ2) この仕組みは農民が土地及び植栽・管理の労働力を提供し、プロジェクトまたは政府側が苗木、(家畜進入を防ぐ)柵の資材、初期収入を得るためのパイナップルの苗などを提供する。間伐及び主伐による収入は通常、農民:行政=75:25で分収される仕組みとなっている。行政側の取り分は将来の造林活動の資金として利用される。4.まとめ 以下、いくつかの要点についてまとめる。a.参加者のステータス ADBプロジェクトでは低い利子率とはいえ、一般農民にとっては負担となる利子分を伐採による収入が得られるまでにも毎年返済していく能力があることが必要となる。よって融資側の現地銀行より参加する際には返済能力などに関する審査が入り、これによって実質的な参加制限がある。よってADBプロジェクトは必然的に中間層から富裕層が対象となると考えられる。これに対してFORCAPでは貧困層から村の有力者まで広く参加しており、概して限られた土地所有を植林にまわしており、収入に対する住民の期待も大きいことが予想され、十分な収益が上がることが必要である。b.住民にとってのインセンティブ いずれのプロジェクトも造林をする際に負担となる、造林費の補助、長期投資の負担軽減を狙っている。これによって実質参加者にとっての収益性は改善される。ただし、一時的な収支だけでなく長期的に需要があることが重要なことであり、この点について一層の市場開開拓や造林者の組織化への努力があって良い。この将来への不安は住民に意識される収益性を大きく悪化させる可能性があり、これを取り除いてやることにも重点を置く必要がある。c.規模と担当者の配置 住民を造林の主体とする際、その技術的なサポートが必要となる。補助金植林プロジェクトにおいて成林率が非常に低い場合が見られ、これは多くの参加者を得て広大な面積への造林を短期間に達成したことの弊害と捉えることが出来る。プロジェクトにおいてはこのような管理への経費を含めて必要経費ととらえ、成林までを成果と考える必要がある。逆にFORCAPのシステムはこれまで担当者による指導がよく行き届いていたが、規模を拡大させた際に十分な体制を取れるかどうかがこの成否を決めると考えられ、この動向に注目したい。
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© 2003 日本林学会
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