抄録
1. はじめに
地位指数は、人工林の適地選定において、重要な判断材料となる。地理情報システム(GIS)の普及や数値標高モデル(DEM)の整備がすすむなか、DEMから得られる地形因子と地位指数を関連づけることによって、広域的な地位指数情報の整備が容易になることが指摘されている。さらに、これと土壌の諸特性とを関連づけることができれば、森林造成による土壌の酸性化や渓流の水質といった環境面への影響に対して、具体性をもった森林計画の樹立が可能となろう。そこで、本報告では、DEMから得られる地形因子から地位指数ならびに、土壌炭素量、窒素量および土壌pHなどの土壌諸特性の推定が可能であるか検討を行った。
2. 調査方法
対象地は富山県氷見市明後谷地内の約130haの流域である。この流域内のスギ林に30箇所の調査区(20m×20m)を設定し、毎木調査行った。さらに、調査区の中央部で土壌断面を作成し、土壌調査を行うと同時に、土壌理化学分析用のサンプルを採取し、pH、全炭素量、全窒素量および容積重などを測定した。
解析に用いた地形因子は、過去の地位指数と地形との関係に関する研究や水文学における流域地形要因の研究を参考に、標高、斜面傾斜、landform index (LI)、terrain shape index (TSI)、土壌堆積様式、および流出寄与域算出のための地形指標(HTI)の6つを選択した。
HTIは、BevenおよびWood (1983)により提案され、雨水の渓流への早い流出に貢献する流域内の流出寄与域を算出するために用いられる地形指標である。この指標は(1)式で表され、その地点の上部に広がる集水面積と斜面傾斜との比に対する自然対数をとる。
HTI=ln(α/ tanβ)…(1)
HTI: 流出寄与域算出のための地形指標
α: 集水面積
β: 斜面傾斜
なお、この値が高いほど土壌水が集まりやい地形であることを示し、逆に低いほど土壌水が流亡しやすい地形であることを示している。
斜面傾斜、TSI、LI、および堆積様式の算出にあたって、それぞれの算出アルゴリズムを作成した。HTIについては既存のアルゴリズム (Bevenら 1995)を用いて算出した。また、地形因子と地位指数との関係は重回帰分析を用いた。
3. 結果および考察
スギ林の地位指数と地形因子の関係に関して、重回帰分析の結果は(2)式のとおりである。
Y=15.221+1.326X1+7.376X2…(2)
R=0.850
Y:地位指数 X1: HTI X2: LI
今回検討した地形因子の中で地位指数に対し有意に影響を及ぼしたのはHTIとLIの2因子のみであった。HTIは水の集まりやすさを示す地形因子であり、LIは風や日射の遮蔽の程度、すなわち蒸発散量に影響する因子といえる。このように、地位指数は林地に供給された降水の流動と蒸発散とに関与する地形因子によって概ね説明されることが確認された。また、回帰式の重回帰係数は高く、この式が地位指数に対する予測式として、実用的なレベルにあることが明らかとなった。
土壌中の全炭素量および全窒素量と地形因子との関係に関する重回帰分析の結果はそれぞれ(3)および(4)式のとおりとなった。
Y1=93.775-1.169X1-17.038X2…(3)
R=0.812
Y2=7.217-0.0698X1-1.154X2…(4)
R=0.755
Y1: 全炭素 (t/ha) Y2: 全窒素 (t/ha)
X1: 斜面傾斜 (°) X2: 匍行土 (ダミー変数)
土壌中の全炭素および窒素量に有意に影響を及ぼした因子は斜面傾斜および土壌堆積様式の匍行土であった。これらの回帰式についても比較的高い相関を示しており、地形因子からいくつかの土壌特性値を予測できることが明らかになった。