日本林学会大会発表データベース
第114回 日本林学会大会
セッションID: R23
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T13 森林の分子生態学--植物,菌類そして動物--
分子マーカーを用いたムニンビャクダンの遺伝構造の解析
*河原 孝行
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抄録

ムニンビャクダンSantalum boninense Tuyamaは小笠原諸島に固有の低木種で、数種の植物に半寄生している植物である。現在、環境省版レッドデータブック(2000)により絶滅危惧IB類に指定され、個体数は250個体未満と推定されている。また、稀にしか結実しないことが報告されており、後代の育成が危惧されている。ムニンビャクダンは特に利用されていないが、ビャクダン属は香木として珍重されており、将来遺伝資源として利用可能性がある。ムニンビャクダンは地下茎により無性的に増殖しているらしいことから、現在1つの個体群に考えられるようなものでも実際は1つのクローンに由来している可能性があり、。ムニンビャクダンの低い結実率は、1)磁化不和合性または近交弱勢と2)クローンにより広がった集団の遺伝構造、、3)訪花昆虫の欠落などが要因として仮定される。そこで、本研究では、絶滅危惧植物ムニンビャクダンの保全を目標に、1)分布など現状の解明、2)分子マーカーによる遺伝構造の解析を行った。 小笠原諸島父島・母島にてムニンビャクダンの現地調査を行った。各集団のラメットの概数を数えた。6集団より異なるラメットと考えられる(1__m__以上離れている)計71個体より葉を採取し、DNA抽出を行った。核ゲノム上のrDNAクラスターのスペーサー領域であるITS1及びITS2、葉緑体ゲノム上のスペーサー領域psbM-trnD、、trnR-trnNをダイレクトシーケンスにより塩基配列を決定した。また、RAPDマーカー及びSSRマーカーを用いた結果も発表を予定している。 ムニンビャクダンは父島3ヶ所(長崎約50ラメット、旭山8ラメット、奥村約30ラメット)、母島3ヶ所(東山約50ラメット、乳房ダム8ラメット、万年青浜約30ラメット)に分布していた。長崎ではいずれも尾根や斜面上部の比較的日当たりのよいやや乾燥した立地に生育していた。父島では樹高平均が1.3__m__に対し、母島では1.7__m__と高い傾向が見られた。ITS1は376bp、ITS2は358bpの全長があった。6集団x個体中に多型は見られなかった。葉緑体DNAは各集団2個体計12個体を抽出し、塩基配列を比較した。psbM-trnDイントロン1001bp、trnR-trnNイントロン630bpはすべての個体で同じ塩基配列を示し多型はなかった。 ITSはこれまでの結果から、ムニンビャクダンではITS領域、葉緑体スペーサーとも多型が見いだされず、非常に遺伝的に均質であることが示唆された。各集団が単一または少数のクローンにより維持されている可能性が高い。また、集団間でも多型が検出されなかったことから各集団が近年の同祖的な期限に由来しているのかも知れない。多くの木本性植物が高い他殖性を保っていることを考えると、この遺伝的な多様性の低さは自殖または近交による弱勢を生じている可能性があり、自然状態での非常に低い結実率を説明できるかも知れない。多型性が高いSSRマーカーや情報量の多いRAPDマーカーの利用による精密なクローン同定が期待され、今回その1部も併せて報告する予定である。また、今後、人工交配により自家和合性・近交弱勢の調査が必要である。

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© 2003 日本林学会
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