抄録
森林生態系におけるCO2の動態の解明には、土壌からのCO2放出量の解明が必要不可欠である。しかし、林床からのCO2放出量は時空間的に大きく変動するため、まずその変動要因を解明する必要がある。また、林床からCO2放出量に影響を与える環境因子として地温と土壌水分が注目されてきたが、これら環境条件と林床からのCO2放出量の関係は必ずしも定量的に整理されているわけではない。特に実際の現地観測において、土壌水分と土壌呼吸量の関係は明らかにされていない。そこで、複数のチャンバーを用いて土壌呼吸量の時空間的な分布及び特性を検討した。 観測対象地域は北海道苫小牧市郊外の苫小牧フラックスリサーチサイト内にある落葉針葉樹林人工林(41°44’ N, 141°31’ E)である。人工林内には高さ26mのタワーが設置されている。主要構成樹種はカラマツで、群落はカラマツの人工林にエゾマツや広葉樹が混ざる形で構成されている。カラマツの樹高は18から20mで、樹齢は約40年である。林床には密にシダ類が繁茂している。2001年度の年平均気温は5.0℃、年間降水量は1132mmであった。本研究ではタワーから北西に約70m離れた地点に土壌呼吸観測機器を設置した。 本観測では、対象木と対象木を結んだトランゼクトライン上に8個の自動開閉式チャンバー(ハイドロテック)を等間隔に設置した。チャンバー間隔(中心)は1.25mとした。チャンバーは測定有効底面積が0.09 m2、測定有効容積が0.018 m3の直方体である。CO2の濃度変化は赤外線ガス分析装置(LI-6252、Li-cor)を用いて測定しデータロガー(CR10X、Campbell)に記録した。各チャンバーの測定時間は5分間とし、最初の1分間は蓋を開けたままで空気の循環を行ない、残りの4分間で蓋を閉じ濃度上昇を測定した。地温の測定にはサミスタセンサ(HOBO H8 Pro Series、onset)を、体積含水率の測定にはTDR(CS615、Campbell)をそれぞれ用いた。2002年9月18日から10月31日まで観測を行なった。観測開始から3週間経過後8つのチャンバーの中から4つのチャンバーを選びチャンバー下の根を掘り出し、根系が存在しない状態での呼吸量を測定した。残りの4つのチャンバーは対照として、根系除去の処理は行なわなかった。 降水量及び土壌呼吸量、地温、体積含水率の経時変化については、9月28、29日、10月1、2日、10月4日、10月6、7日、10月27日に土壌呼吸量が急激に増加していた。体積含水率も土壌呼吸量と同様に9月28、29日、10月1、2日、10月4日、10月6、7日、10月27日に値が急激に増加した。土壌呼吸量の急激な増加は、体積含水率の急激な上昇が原因であると考えられる。降雨のあった期間は土壌呼吸量の急激な増加が見られた期間と一致していた。以上のことから、降雨があるとそれに伴い体積含水率が増加し、何らかのメカニズムによって土壌呼吸量が増加すると考えられる。 そこで、土壌水分量の変化を調べ、降雨の影響を受けている期間を定義した。降雨の開始は土壌水分量が急激に増加を始めた時刻とし、降雨の影響がなくなったとみなされる時刻は減水係数λを用いて求めた。降雨の影響を取り除いた前後の土壌呼吸量と地温との関係を比較した結果、降雨中・直後の値が除かれ、R2の値が降雨の影響を削除する前より削除した後の方が高くなった。よって、降雨の影響を取り除くことによって、水の浸透による土壌のメカニズムの影響が除かれ、結果として土壌呼吸量そのものと環境因子の関係が導出できると考えられる。