日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: A19
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T2 従来の育種技術とバイオテクノロジー等新技術との統合による新たな林木育種の展開
山梨県および埼玉県秩父地方のオノオレカンバ集団のSSRマーカーによる遺伝的多様性解析
*西川 浩己津田 吉晃清藤 城宏井出 雄二
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抄録

 甲州手彫印章は、山梨県の伝統的工芸品であり主要な地場産業である。近年、オノオレカンバの材質が印材として適当であるとして商品化され、県内に生育する天然生木の需要が生じた。そのため、本種資源の安定供給およ び遺伝資源保全の観点から、県内材の永続的確保のための方策を利用と並行して講ずる必要がある。資源としてのオノオレカンバの適正な管理や保全を考えるにあたって、地域集団の遺伝的特徴についての知見が重要である。しかし、本種の遺伝的多様性やその維持のメカニズムに関する研究はこれまでまったくない。一方、近年カバノキ属樹木のマイクロサテライトマーカーの開発が進み、これを用いた遺伝的多様性に関する研究が容易になって きている。そこで、他のカバノキ属樹木で開発されたマイクロサテライトマーカーを適用して、オノオレカンバの集団内および集団間の遺伝的多様性を、山梨県内の集団を中心に 調査した。 山梨県内の4集団および東京大学秩父演習林の計5集団とし、各集団につき32個体を供試した。葉、枝および幹の形成層からを用いてDNAを抽出し、PCRのテンプレートとした。多型解析には、ウダイカンバの5種およびシラ カンバの3種の計8種のマイクロサテライトマーカーを用いた。集団内で遺伝的多様性を示す統計量として、1遺伝子座あたりの対立遺伝子数(A)、ヘテロ接合度の観察値(Ho)および期待値(He)、近親交配の程度を示す 近交係数(FIS)を算出した。また、FIS の0からの偏りの有意性の検定および集団間の遺伝的分化程度を示すFSTについては遺伝解析ソフトFSTATを用いて算出した。また、遺伝解析ソフトNJBAFDを用いてNeiの標準遺伝距離Dと Goldsteinのdelata-mu squareを求め、近隣結合法によりデンドログラムを作成した。さらに、集団間の地理的距離と遺伝的分化との間の関係についてマンテル検定を行った。 用いた8マーカーのうち1マーカーは単型 であった。5集団全体では7遺伝子座で53個の対立遺伝子が検出された。集団内の遺伝的多様性では、Aは3.286_から_3.714の値であった。Hoは0.313_から_0.460、Heは0.316_から_0.417であり、 集団内の遺伝的多様性の差は小さく、いずれの集団も同程度の多様性を保持していた。いずれの遺伝子座においてもFISの0からの偏りは有意でなかったことから、調査集団は任意交配集団とみなすことができた。 用いたマーカーのうち、ウダイカンバで開発されたマーカーの方がシラカンバで開発されたものより高い多型性を示し、これらのみでHeを算出したところ、0.481_から_0.611となった。このことから近縁種のマイクロサテライトマーカーの流用は可能であるが、遺伝的多様性の詳細な検討には、適用すべき種に対する独自のマーカー開発が必要と思われた。集団間のFSTは0.051であった。集団間の遺伝的距離については、Neiの標準遺伝距離Dと delata-mu squareを用いたどちらの場合でもデンドログラムは同型で、両者とも集団間の地理的な距離と遺伝的な距離には傾向が認められなかった。また、全調査集団総当たりの地理的距離とFSTの関係については傾向が認められなかった。しかし、富士河口湖町西湖を除いた場合には有意な関係が認められ、地理的な距離以外の要因が、集団間の遺伝的分化に影響していることが示唆された。

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© 2004 日本林学会
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