日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: A35
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T1 樹木の環境適応とストレスフィジオロジー
ガンマ線照射によるポプラの成長への影響
*西口 満吉田 和正角園 敏郎
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キーワード: ポプラ, ガンマ線, 成長, DNA, RAD51
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抄録

 原子力は産業や医療、学術利用を通じて、人間社会に多大な貢献をしている。しかし、利用に伴って放出される電離放射線(以下、放射線)は、ヒトを含めた様々な生物の細胞に影響を及ぼし、時に身体的傷害や遺伝的影響を残す。このような危険性を軽減するためには、放射線の生物への影響評価やその防護に関する知識が重要となる。従来、樹木に関しては、ガンマ線を初めとする放射線に対する感受性や、照射による形態的な変化が調査され、また有用変異体の作出が進められてきた。しかし、そのような現象が生じる機構に関して、DNA損傷等の分子レベルでの説明を可能にする知識は得られていない。我々は、放射線の樹木への影響や、その影響を低減する防御機構を解明することを目指して、ガンマ線照射による樹木の成長への影響を解析し、加えて、損傷DNAの修復への関与が推定される遺伝子を単離した。
 挿し木により増殖した同遺伝子型のポプラ(Populus nigra var. italica)の苗木にガンマ線を急照射した。照射線量は20時間当り10、20、50、100グレイ(Gy)で、対照として非照射区を設定した。照射後、苗木を明期16時間、暗期8時間、25℃で10週間にわたり育成した。育成期間中に枯死した個体は無かったが、照射線量の増加に伴い樹高は低下した。特に、100Gy照射区では照射後2週間内の成長阻害効果が高く、その後も完全には回復せず、10週後の樹高は非照射区の約65%であった。根元直径や葉数は非照射区と10_から_50Gy照射区ではあまり差が認められないが、100Gy照射区では減少傾向にあった。また、10週後の乾燥重量は各処理区において変動しているものの、十分な規則性は類推できなかった。形態異常は、50、100Gy照射区において照射後2_から_6週間で生じた。節間内での茎の分岐、対生した葉(通常、ポプラの葉序は互生)、葉柄の屈曲、葉の断裂や複葉化が観察された。しかし、これらの変異は局所的なものであり、全ての照射個体や、個体中の全ての葉に見られるものでは無かった。また、その後、茎頂より伸長する茎や展開してくる葉の形態は正常だった。今回の実験では、各照射区内での個体間差が大きく、これは、同遺伝子型であっても、照射時の植物の状態やその後の成長過程等によって、放射線の影響に差異があるためと考えられる。また、形態異常の出現箇所や時期が限定されていたことについては、照射によって生じた損傷が修復された可能性と、傷害を被らなかった分裂細胞からその後の器官分化が起こっている可能性の二つがある。実際に、ガンマ線照射によって、DNA等の細胞内物質に異常が生じているかどうかを確認する必要がある。
 ポプラのDNA損傷修復機構を解明するために、相同組換え修復に関与すると予想されるRad51相同遺伝子の単離を行った。シロイヌナズナのAtRAD51と相同性を示す遺伝子をポプラ(P. trichocarpa)のゲノムDNA塩基配列からBlastプログロムを用いて検索した。相同性を示す領域の塩基配列に基づいてPCR用のプライマーを設計し、P. nigra var. italica芽由来のRNAを用いて、RT-PCRを行った。増幅したDNA断片をクローニング後、塩基配列を決定した結果、PnRAD51遺伝子を単離した。予想されるPnRAD51タンパク質は、342アミノ酸残基から成り、推定分子量は約37kDaであった。シロイヌナズナAtRAD51、ヒトhRAD51、酵母RAD51、大腸菌RecAとは、それぞれ91、68、63、19%の相同性を示した。

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© 2004 日本林学会
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