日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: A41
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T1 樹木の環境適応とストレスフィジオロジー
高等植物の膜脂肪酸不飽和度と環境温度について
*清水 英之津山 孝人本田 朋子渕上 佳代河津 哲小林 善親
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キーワード: 不飽和脂肪酸, RNAi
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抄録

●目的 これまでに、我々は樹木葉の膜脂質を構成する脂肪酸の組成と温度ストレス耐性との関係について研究を行ってきた。その結果、樹木葉の膜脂質を構成する脂肪酸組成は、夏に飽和脂肪酸の割合が高く、秋から冬にかけて多価不飽和脂肪酸の割合が増加することを見出した。このことは気温の変化に応じて膜の流動性を維持するために重要であると考えられる。しかしながら、樹木葉における脂肪酸組成と温度ストレス耐性との関係は不明な点が多い。 本研究では、脂肪酸不飽和度と温度ストレス耐性との関係を明らかにするために、まず不飽和度が減少および増加した高等植物を得ることを目的とした。並びに、2つ以上の遺伝子の発現を同時に抑制および促進する手法についても検討した。●方法 高等植物細胞の脂肪酸不飽和化には真核型と原核型の2つの経路が存在し、真核型は小胞体の脂肪酸不飽和化を、原核型は葉緑体の脂肪酸不飽和化を行うことが知られている。それぞれの経路での脂肪酸不飽和化は、小胞体局在型および葉緑体局在型の脂肪酸不飽和化酵素(FAD)が担っている。 本研究ではモデル植物としてタバコ(Nicotiana tabacum var. Samsun)を用い、FAD遺伝子の発現を制御することにより、 ・小胞体膜の脂肪酸不飽和度が減少 ・葉緑体膜の脂肪酸不飽和度が減少 ・小胞体膜と葉緑体膜の脂肪酸不飽和度が減少 ・小胞体膜の脂肪酸不飽和度が増加 ・葉緑体膜の脂肪酸不飽和度が増加 ・小胞体膜と葉緑体膜の脂肪酸不飽和度が増加の、6種類の形質転換タバコの作製を試みた。 タバコでは、NtFAD3が小胞体膜のC18:2→C18:3の不飽和化を触媒し、NtFAD7が葉緑体膜のC18:2→C18:3およびC16:2→C16:3の不飽和化を行う。このため、これらのFADをコードする遺伝子の発現を抑制することで、膜脂肪酸不飽和度の減少したタバコを作製することが可能であると考えられる。NtFAD3とNtFAD9遺伝子のORF領域は相同性が高いため、比較的相同性の低い3ユUTR領域を単離し、RNAi(RNA干渉)法により、NtRAD3およびNtFAD7の発現がそれぞれ抑制される形質転換タバコを作製した。さらに、2つの3ユUTRを組換えPCR法によって連結し、これをRNAi法でタバコに組込むことで、NtFAD3とNtFAD9の発現が同時に抑制される形質転換タバコも作製した。 また、反対に膜脂肪酸不飽和度の増加したタバコを作製するため、小胞体局在型FADをコードするクロレラ由来のCvFAD3および、葉緑体局在型FADをコードするクスノキ由来のCcFAD7-1を、高発現ベクターpBE2113を用いてそれぞれタバコへ導入した。さらに、CvFAD3とCcFAD7-1を同時に発現させるため、「プロモーター ミ CvFAD3 - ターミネーター - プロモーター - CcFAD7-1 - ターミネーター」の並びで両遺伝子をpBE2113に組み込み、これをタバコへ導入した。 得られたそれぞれの形質転換タバコについて、葉よりトータル脂肪酸を抽出し、ガスクロマトグラフィーにより脂肪酸組成の測定を行った。●結果 RNAi法により不飽和度を減少させるタバコは、現在形質転換体が得られたところであり、今後ガスクロマトグラフィーにより脂肪酸組成の測定を行う。 CvFAD3を導入したタバコは、最も不飽和度が高かった物でC18:3の相対含量が63.1%と、野生株の値(56.3%)と比べて6.8%増加した(表1)。CcFAD7-1導入タバコのC18:3の相対含量も63.8%と、野生株より7.5%増加した。CvFAD3とCcFAD7-1を同時に導入したタバコの脂肪酸組成については現在測定中であるが、これまでのところ、C18:3が62.5%に増加した株が得られている。

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© 2004 日本林学会
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