日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: D16
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T8 森林土壌におけるガスの動態
半島マレーシア熱帯雨林における土壌呼吸量の空間変動解析
*三谷 智典小杉 緑子谷 誠高梨 聡
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抄録
(はじめに)
COをはじめとした温室効果ガスの大気中濃度上昇に伴う地球温暖化問題は、全球規模で取り組むべき深刻な課題である。このような状況の中で、森林に対しては、COの吸収源としての役割が期待されている。一般に、森林‐大気間のCO2交換過程の測定法として乱流変動法が広く使用される一方,夜間大気安定時の信頼性等の問題が指摘されている(Goulden et al. 1996)。そこで,乱流変動法と同時に,森林内の各コンパートメントにおけるCO2のシンク・ソースを直接把握できるチャンバー法による観測態勢が広く取り入れられている。しかしながら,乱流変動法とチャンバー法の代表するスケールの違いから,両者の比較には注意が必要である。また,土壌呼吸量は,CO2のソースとなる呼吸量の多くをしめ、その評価は重要であるが、時空間的に変動が大きいことから、困難とされる(Rayment and Jarvis, 2000 ; Stoyan et al. 2000)。そこで,本報告では,半島マレーシアに位置するPasoh森林保護区内の微気象・フラックス観測タワー周辺部で土壌呼吸量の観測を行い,地球統計学を用いた解析によって,土壌呼吸量の空間変動特性を明らかにすることを目的とする。
(観測地、方法)
観測地は、半島マレーシアPasoh森林保護区である(2°58′N, 102°18′E)。2002年9月、2003年3、8月に、タワー周辺部で観測を実施した。年平均気温,年平均降水量は,24.8 ℃,1804 mmである。タワー周辺に大きさの異なるプロットを設け(0.5m間隔に区切った3×3 mプロット,1 m間隔に区切った5×5 mプロット,2 m間隔に区切った10×10 mプロット,10 m間隔に区切った50×50 mプロット),その格子点上で土壌呼吸量,地温,土壌水分の観測を行った。土壌呼吸量は,自作の閉鎖循環型チャンバー(内径13 cm)を用い,赤外線CO2/H2Oガスアナライザー(LI-6262, LI-COR)で観測した。地温は,2 cm,土壌水分は表層から12 cmの平均体積含水率を測定した。
(地球統計学)
地球統計学とは,データーが距離と方向に対してどのような関係を持つかを測定する方法であり,得られたセミバリアンスに対して経験モデル(セミバリオグラム)をあてはめ,観測点間の空間依存性,自己相関距離を推定する。(結果、考察)
各プロットで得られた土壌呼吸量の変動係数から,プロットサイズが大きくなるとともに変動が大きくなることが示された。これらから,プロット間で土壌呼吸量の空間変動特性が異なることが考えられる。そこで,各プロットにおいて,セミバリアンスを計算した結果,プロットサイズが大きくなるに従い,セミバリアンスは増加し,50 mプロットでは,定常状態となった。セミバリアンスは,値が増加している間は,観測点間に空間依存性(自己相関)があり,値が定常した場合に観測点間に空間依存性(自己相関)が無くなること表す。このことから,小さなプロット内の変動は,大きなプロット内の変動の一部分であると考えられる。次に,得られたセミバリアンスの関係に対して,経験モデル(セミバリオグラム)を適用した結果,土壌呼吸量の自己相関距離は,20 から30 m程度と推定され、この距離を一つの単位にして変動していることが示唆された。同時に土壌水分の自己相関距離は15 から30 m程度と推定された。土壌呼吸量の自己相関距離との類似性から,土壌呼吸量の空間変動に対して,土壌水分の空間変動の影響が考えられる。
また,土壌呼吸の自己相関距離が20 から30 mということは,この距離よりも大きな距離にある観測点間の変動はお互いに独立であることを示している。したがって,この距離を越える間隔で土壌呼吸の観測を行えば,この林分での土壌呼吸の空間変動特性を効率よく捉えた観測が行えるものと考えられる。
以上から、この林分での土壌呼吸量の評価には、今回設置したプロットの中では、50 mプロットが最も土壌呼吸量の空間変動を効率よく捉えていると考えられる。50 mプロットでの3回の土壌呼吸量、地温、土壌水分の観測の結果、地温、土壌水分には季節変動が見られたものの、土壌呼吸量には、明確な季節変動は見られなかった。この林分の土壌呼吸量が、地温、土壌水分の変動の影響を大きく受けないとして、年間土壌呼吸量を推定した結果、2.2 kgCm-2yr-1と推定された。
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© 2004 日本林学会
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