抄録
マツ科トウヒ属のヤツガタケトウヒは、絶滅危惧II類にリストされている。演者らによって詳細な分布状況が調査され、現在は八ヶ岳南部と南アルプス北西部のおよそ7カ所の地域に生存していることが知られている。 本研究では、マイクロサテライトマーカーを用いて、6カ所の自然集団と1カ所の人工林集団について遺伝的変異を調査し、各集団に保有される遺伝的多様性の量、近交係数、集団間の分化や遺伝的関係などを解析した。 西岳310林班および329林班人工林に保有される遺伝的多様性の量は、他集団と比べて明らかに低かった。遺伝的多様性が高いのは、白州町大平および長谷村戸台川周辺であり、西岳310林班の約2倍であった。近交係数はどの集団でもあまり大きくなく、特に近親交配が行われているとは思われなかった。遺伝距離に基づいて集団間の関係を示す系統樹を書くと、まず310林班の集団と329林班人工林の集団とが非常に近く、かつこの2集団が他のどの集団からも遠い関係にあった。