成木が高密度に分布する優占種の樹木集団では短距離の受粉が卓越する。もし成木集団内に遺伝構造が存在すると二親性近親交配が増加することから、適応度が低い次世代が生産される。しかしコホートの樹齢が上がるにつれて、構成個体数は減少し、近親交配由来の個体は集団から排除される。以上の仮説が正しければ、コホートの樹齢が上がるにつれて推定される有効な花粉散布距離は長くなり、近交係数は減少すると考えられる。この仮説を検証するために、樹木集団内の複数の生育段階において推定花粉散布距離(dp)、プロット外からの花粉移入率(mr)、近交係数(FIS)を比較した。鳥取県大山ブナ林の4 haプロットにおいてブナの成木、種子、5年生実生および稚樹を材料とし、マイクロサテライトマーカー7座による親子解析と近隣モデルによる花粉散布推定を行なった。dp、mrはともに種子よりも実生で高い値を示し、とくに実生のmrは80%を超えた。またFISは4生育段階間で有意差が検出されなかったことから、種子生産時に近親交配を回避する機構が存在する可能性が示された。発表では、稚樹の花粉散布を含めた解析結果について報告する。