紅海沿岸域は年間降水量が少なく、非常に乾燥しているため、海岸域に生育するヒルギダマシは不連続な群落を形成している。ヒルギダマシはマングローブの内でも最も分布が広く、その範囲は東南アジアやオセアニアを中心として中東や東アフリカ沿岸までおよぶ。東南アジアでは、帯状分布をするマングローブ林群落の内でも最も海に近い部分に生育する。アラビア半島の海岸では内陸部からの真水の供給がないため、マングローブは海水のみで生育しなければならず、耐塩性に優れた本種が主にワジの出口に群落を形成している。群落の地理的な孤立、種子分散に影響する海流の季節パターン、沿岸での過去の人間活動との関係から、紅海沿岸のヒルギダマシはこれまで遺伝的変異が調査されている湿潤な東南アジアなどとは異なる遺伝的構造を保持しているかもしれない。しかしその実態はこれまで調査されていない。本研究では核マイクロサテライト分析より、アフリカ紅海沿岸に生育するヒルギダマシについて過去の集団動態を考察するため、遺伝的多様性の地理的分布を解明し、すでに報告されている地域での遺伝的変異と比較した。