広島県を含む西中国山地では,近年,ツキノワグマの分布域が拡大しており,クマとの遭遇や被害を受けるリスクが高まる傾向にある。本発表では,広島県内のツキノワグマの目撃及び捕獲の時空間的な分布状況を把握し,クマの出没が集積している地域の有無及びその範囲を統計的に検出することを試みた。広島県では島根県及び山口県と共同で,大量出没の予測を目的とした堅果類等の豊凶調査を平成24年度から実施しており,出没が特定の地域に集積している場合には,堅果類等の結実状況などクマの出没に影響する要因の検討に役立てるほか,地域の住民に警戒を促すことが期待される。ツキノワグマの目撃及び捕獲情報には広島県環境県民局自然環境課が収集した平成18年度から平成24年度の情報を基準地域メッシュ単位で集計して用いた。集積性の検出のために空間スキャン統計量による検定をSaTScanを用いて行った。時空間変動を調整して解析したところ,平成18年秋に県北西部の北広島町や安芸太田町で,平成22年秋に県北東部の三次市や庄原市で,それぞれ他の時期に比べて出没が集積している地域が特定されるなど,出没の時空間分布の変化を検出することができた。