イタヤカエデには多くの亜種が存在するが,これらの遺伝的分化については明らかでない。本研究ではイタヤカエデのうち日本に分布する,エンコウカエデ,ウラゲエンコウカエデ,オニイタヤ,イトマキイタヤ,エゾイタヤ,アカイタヤ,ウラジロイタヤ,タイシャクイタヤの8つの亜種・品種について遺伝解析を行い,これらの系統関係を明らかにすることを目的とした。各々の亜種・品種の分布域を網羅するように全国12か所から採集したイタヤカエデのサンプル76個体について,EcoRⅠとBglⅡの2種類の制限酵素を用いてRADシーケンスを行い,約1.7億本(86億bp)の「リード」を得た。得られたリードを基にde novoシーケンスを行い,リードより長いDNA断片「コンティグ」約70万本を作成した。得られたコンティグをBLASTの結果によって葉緑体・ミトコンドリア・核の3つに分類し,塩基置換・欠失・挿入などの変異を検出するとともに亜種・品種間で結果を比較した。その結果DNAの変異が葉緑体で453箇所,ミトコンドリアで35箇所,核で450箇所検出された。葉緑体においてはウラジロイタヤに特異的な変異が見られた箇所があったが,そのほかの変異は亜種・品種や産地によらなかった。