抄録
ニホンジガの頭数密度が高い地域では,樹木の幹の剝皮防止や林床植生の保護などのためにシカの侵入を防ぐ柵が設置されることがある.植生保護における柵の効果が認められるケースがある一方,ササなどの繁殖力の高い種が優占したために樹木の更新が阻害されているケースもみられる.本研究では,後者のケースでの防鹿柵が高木の生存と成長に与える効果を解明するために,大台ヶ原正木峠の衰退林に設置された防鹿柵の内外において,トウヒ成木の生残,成長,剝皮の状況を調査した.2006年に防鹿柵の内外の約2haに生育するトウヒ成木(DBH>10cm)を対象に,DBHを測定し剝皮の有無を記録した.また,柵の内外においてミヤコザサの稈高を2002年から測定した.2015年,これらの成木を対象に,生死,DBHおよび剝皮の程度を再測定した.柵内では柵が設置された2002年の直後からミヤコザサ稈高が急速に上昇した.柵外でもシカの頭数管理の影響からササ稈高が徐々に上昇した.発表では,トウヒ成木の9年間の死亡率,直径成長を柵の内外で比較する.また,柵内のかつて剝皮害を受けた成木の幹の状況ならびに柵外の成木の剝皮状況を示す.