主催: 一般社団法人日本森林学会
会議名: 第130回日本森林学会大会
回次: 130
開催地: 新潟県新潟市 新潟コンベンションセンター「朱鷺メッセ」
開催日: 2019/03/20 - 2019/03/23
これまで植物集団内の遺伝的構造の形成過程は,種子や花粉の移動による遺伝子散布などの自然選択に中立な過程に着目して解明されてきたが,集団内の環境に対する遺伝子型の局所適応が遺伝的構造化に及ぼす影響を検討した試みは立ち遅れている.本研究は,白山国立公園刈込池(福井県大野市)周辺の天然林に設置された1ha(100m×100m)の固定調査区内においてブナ成木(胸高直径≧5cm)166個体の遺伝的構造を調査した.マイクロサテライトマーカー7遺伝子座とMig-seq法を用いて検出した一塩基多型(SNP)32遺伝子座を用いて解析した結果,成木全体,上層木,下層木すべてにおいて近距離の距離階級で有意な正の共祖係数が認められた.乾燥応答の候補遺伝子FcMYB1603領域上の7箇所のSNPの空間分布を解析した結果,下層集団で遺伝子散布から予測される空間パターンを逸脱する非中立遺伝子座が1箇所検出された.環境状態とその遺伝子座の空間分布を相関分析した結果,ササの被覆が高い場所に低頻度の対立遺伝子が分布していた.さらに本発表では,ブナ個体の生残・成長に影響を及ぼす林分内の不均一な環境要因を通じた遺伝子の空間分布パターンの形成過程について議論する.