地学雑誌
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論説
フィリピン共和国,イロシン火砕流噴火の推移と特徴
小林 哲夫マリア ハナ ミラブエノマリア アントニア ボルナス鳥井 真之エドアルド ラグエルタアルトロ ダアグエリクソン バリソ中村 俊夫奥野 充
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2014 年 123 巻 1 号 p. 123-132

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抄録

 フィリピン共和国,ルソン島南東端のソルソゴン地域での41 cal kBPの大規模火砕流噴火の結果,11 × 11 kmのイロシン(Irosin)カルデラが形成された。このときの噴火は,カルデラを形成する大規模噴火とその先駆的な噴火の2つに区分される。
 先駆的噴火は,現在のカルデラ縁の南東斜面の小規模溶岩ドームであるマロバゴ(Malobago)溶岩ドームの形成と細粒火山灰の噴出からなる。ほかにも類似した溶岩の流出がカルデラ内にあったかもしれない。
 地質学的短期間(およそ10年以内)の休止後,3つの噴火フェーズからなるカルデラ形成噴火がはじまった。最初の噴火フェーズは,現在のカルデラ内でおこったプリニー式噴火であり,バルク体積約 20 km3の軽石質テフラが北方に拡散した。プリニー式噴火の早い段階で噴煙柱の崩壊が繰り返し発生し,intra-plinian火砕流が薄い細粒火山灰と降下軽石層に挟在している。プリニー式フェーズの終わりごろにソルソゴン地域に強い地盤振動があり,プリニー式噴火による堆積物の上下面に撹乱構造を形成した。
 イロシン火砕流の噴火は,グランドレーヤーを基底部に伴う下部ユニット火砕流の噴出ではじまった。そして,それに続く破局的な噴火によって上部ユニット火砕流が噴出し,現在のカルデラ地形を形成した。上部ユニットは,厚く粗粒な火砕流堆積物であり,基底部に粗粒な岩片濃集層(地点Dで厚さ約 2 m)が認められる。イロシン火砕流のバルク体積は,およそ 25 km3と見積もられる。
 マヨン(Mayon)火山西麓のイナスカン(Inascan)スコリア丘の山頂部で,イロシン火砕流に伴う降下火山灰(co-ignimbrite ash-falls)が発見されている。ここでの火山灰層は,層厚約1mで細粒火山ガラスと少量の斑晶鉱物からなる。比較的粗粒の最下部層は,プリニー式降下軽石層の遠方相に対比される。これらの降下テフラも含めたイロシンカルデラから噴出した火砕物全体のバルク体積は,ほぼ 70 km3に達する。

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© 2014 公益社団法人 東京地学協会
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