地学雑誌
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論説
三瓶火山から噴出した浮布テフラと阪手テフラの関係の検討
丸山 誠史山下 透林田 明平田 岳史檀原 徹
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2020 年 129 巻 3 号 p. 375-396

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抄録

 中国地方および近畿地方で見いだされている阪手テフラは,三瓶火山より噴出した三瓶浮布テフラ(SUk)に対比されている。SUkテフラは,三瓶山近傍の露頭観察より,下位から浮布降下軽石堆積物(Uk-pfa),緑ヶ丘火砕流堆積物(Md-fl),浮布降下火山灰堆積物(Uk-fa)に分けられている。これまでの研究では,阪手テフラはMd-flに対比されている。Md-fl(阪手)試料に含まれる角閃石の屈折率は,Uk-pfa試料に含まれるものと似通っていた。それに対して,Md-fl(阪手)試料に含まれる火山ガラスの屈折率は,Uk-pfa試料に含まれるものより低かった。またUk-faの岩石学的特性から判断すると,Uk-faとMd-flは一つの同じテフラとみなすことが可能だった。Uk-pfaに含まれる火山ガラスのSiO2濃度は,ガラス屈折率からの予測に反して,Md-flのものよりも高かった。しかしながら,Uk-pfaに含まれる火山ガラスのFeO濃度は,Md-flのものに比べて明らかに高かった。このことからガラス屈折率の差異は,SiO2濃度ではなくFeO濃度の違いによるものと推定された。火山ガラスに含まれる合計58元素の濃度パターンは,全体としてはMd-flとUk-pfaの間で非常に似通っているものの,軽希土類元素などの部分で明らかに区別が可能だった。こうした元素組成の違いは結晶分化の過程で起こったか,あるいは他のマグマ源からの混入による,マグマの化学組成の変化によるものと推定された。これまでの研究をみると,Md-fl/Uk-fa(阪手)テフラに対比されるテフラは,中国地方および近畿地方に広く分布していた。一方,Uk-pfaテフラに対比されるテフラは,近畿地方南部およびその近海,そして四国東端で見いだされていた。Uk-pfaとMd-fl/Uk-faは一連の噴火活動で噴出したものと考えられるが,テフラの分布域も明確に区別可能であることが判明した。本研究の結果から,Uk-pfaとMd-fl/Uk-faテフラはそれぞれ,SUk(lower)(下部)およびSUk(upper)(上部)テフラと,より単純なものに再定義可能である。

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