本稿は,地形・地質・地下水・地盤強度など多角的な地すべり調査と過去の道路切土により発生した崩壊や地すべりの再現解析にもとづき,新たな切土に対する安定性を評価し対策工を検討したもので,この事例から得られた土工の留意点を示すものである。地すべり調査では,すべり面となる可能性の高い岩盤の脆弱部や斜面安定上危険な被圧水が確認された。解析では,従来の経験式や技術者の判断によって設定した当該斜面の強度定数 c,φにより過去の崩壊や地すべりを再現し,得られた強度定数を用いて想定される初生すべりに対する安定性を評価した。その結果,切土後の安全率が 11%(3 次元)あるいは 25%(2 次元)低下することが分かった。新第三紀の砂岩泥岩互層(付加体)からなる切土斜面では,抵抗力の強い砂岩層が切土によって失われた場合,安全率が大きく低下し,初生地すべりが予測される。