抄録
1 はじめに
学習指導要領の改訂により、中学校「技術・家庭科」家庭分野においては、“地域の食材を生かすなどの調理を通じて、地域の食文化について理解すること”が重視され、高等学校家庭科「家庭総合」食生活の文化の単元においては、“地域の食文化に関心を持たせ、地域で伝承されてきた行事食や日常食の調理実習を通して食文化を主体的に継承することの意義について考えさせること”が重視されている。
これまで家庭科食教育では、「食育」や「地産地消」を積極的に授業で取り上げてきたが、昨今の食産業の進展等による食の外部化の進行や少子高齢化、核家族化による家族形態の変容など、さまざまな社会的環境の変化は、家庭の食生活や地域の伝統的な食文化に少なからず影響を与えていることが推測される。
そこで、地域の食文化の単元においては、家庭や地域の実態をふまえた家庭科教育を展開する必要がある。
2 研究方法
筆者が1995年に実施した「秋田県における食生活の実態」によれば、郷土食の手作り状況は、「きりたんぽ鍋」のように全県的に認知され継承されているものと、「いもの子汁」「納豆汁」のように地域的特徴が見られるものがあった。この傾向は、食生活の変容に大きく影響受けるものと思われることから、経年による変化の実態を把握するため、2010年に同様の調査を実施し比較した。
<調査の概要>
1) 調査名 「秋田県における食生活の実態」
2) 調査対象 秋田県在住の調理主体者
3) 調査方法 層化多段抽出法
4) 調査日 2010年10月~12月
5) 配布数 1485部
6) 回収数 1159部
7) 有効回答数 1074部
8) 有効回答率 92.7%
3 結果および考察
郷土食の手作り状況は経年により変化している。「きりたんぽ鍋」「だまこ鍋」「しょっつる鍋」「納豆汁」「けの汁」「あさづけ」は手作りが増加し、「なすの麹漬け「飯ずし」「なた漬け」は手作りが減少した。また、経年により手作りが増加した料理には地域差がみられ、その傾向は郷土食の種類によっても異なることがわかった。
また、郷土食の外部化については、「いぶり漬け」「笹もち」「甘酒」「なた漬け」「なすの麹漬け」「飯ずし」のように、全県的に高い外部化傾向を示している料理と、「いもの子汁」「けの汁」のように全県的に外部化状況が少ない料理があった。また、「きりたんぽ鍋」や「いものこ汁」のように手作りする割合が高いものには地域差のあることがわかった。
一方、郷土食の認知状況には、「きりたんぽ鍋」「だまこ鍋」「しょっつる鍋」「いものこ汁」「納豆汁」「笹もち」「甘酒」「いぶり漬け」「なた漬け」のように、全県的に認知度が高く年代による差はほとんど見られないものと、「けの汁」や「飯ずし」「あさづけ」のように年代により差があるものがあった。
以上のことから、秋田県における郷土食伝承の意識は、経年により高くなり、地域で継承されていることが実証された。その際、各家庭で継承されているものと、外部化に移行することで継承されているものがあった。このことから、秋田県における郷土食は、それぞれ作り手を変えて今後も継承されていくことが推測される。
4 おわりに
「地域の食文化」の授業においては、学習指導要領改訂の趣旨をふまえて、地域の郷土食の実態やそれぞれの学校の所在地及び個々の家庭の実情に応じた題材を取り上げる必要がある。同時に、伝統食の外部化の状況を把握することで、郷土食を主体的に継承する意義を考えさせることができるものと思われる。