日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第60回大会/2017年例会
セッションID: B2-5
会議情報

第60回大会:口頭発表
消費者教育に関する中学校・高等学校教員用支援教材の作成
神山 久美
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

<研究の背景と目的>
? 
次期学習指導要領が告示された。家庭科では小学校から消費者の役割が強調され、「消費生活・環境」の内容の充実が図られた。学校での消費者教育の推進が求められている。各地域の消費生活センター等は消費者教育の拠点と位置付けられており、学校教育への支援、例えば出前講座や学校向け教材作成、教員研修などの実施が増えている。
? 本研究では、山梨県が中学校・高等学校教員向けに発行した消費者教育用支援教材を例として、近年の消費者教育の動向や消費生活センターを拠点とした消費者教育の推進、中学校・高等学校における消費生活の指導内容などについて考察を行った。
<方法>
? 消費者教育の近年の動向を踏まえて、山梨県の中学校・高等学校教師用消費者教育の支援教材を2015年度に作成した。2016年度には、フェアトレードの内容を追加し、山梨県が実施した高等学校教員へのアンケート調査結果と合わせて考察を行った。教材作成を通して、消費生活センターを拠点とした消費者教育の推進や中学校・高等学校における消費生活の指導内容などについて、現在の課題を見出した。
<結果と考察>
 山梨県は「やまなし消費者教育推進計画」を2014年に策定し、この計画の重点施策の一つが「小学校期・中学校期・高等学校期における消費者教育の推進」となっている。今回の教材は、この計画に基づき、消費者庁「地方消費者行政推進交付金」を用いて2016年3月に発行されたものである。「消費者市民社会をつくる~中学校・高等学校における消費者教育のために~」という題名で、中学校・高等学校教員を対象とした支援教材であり、筆者は執筆及び編集責任者を務めた。
 消費者教育推進法では、消費者市民社会の定義や消費者教育推進をする上での基本的な考え方が示された。それに基づき、作成教材では消費者市民社会の形成に向けた消費者の役割を理解する内容や授業づくりへの情報を提示した。また、山梨県教育庁義務教育課及び高校教育課、山梨県金融広報委員会、財務省関東財務局甲府財務事務所を協力機関として、連携しながら作成した。この教材は、公益財団法人消費者教育支援センターの2016年消費者教育教材資料表彰で優秀賞を受賞し、高い評価を得られた。
 消費者教育推進法施行や消費者教育の拠点としての消費生活センター等の位置づけがあるため、関連機関との連携が以前よりも円滑に進められるようになってきた。しかし、関連機関のもつ消費生活に関する多くの情報を、教員が授業で活用しやすいよう工夫するなどが必要である。そのため、消費生活センター等で消費者教育の効果的実践を支援する消費者教育コーディネーターという専門職には、学校教員の経験を有する人材が関わることが望ましいと考えられた。
 山梨県は、県内公立高校で消費者教育に関わる教科等を担当している全教員を対象として、2016年12月~2017年1月にアンケート調査を実施した。実施されている内容としては、悪質商法や契約、契約トラブルなどが多く、消費者市民社会やフェアトレードなどは少なかった。2017年3月、教材にフェアトレードの内容を追加して、「やまなしの消費者教育」のwebサイトに掲載した。フェアトレードの普及を促進する立場として「認証型」と「提携型」の2つがあり、各組織の独自基準で行われているものもある。家庭科の教科書では認証ラベルの紹介が多いが、ラベルの有無のみでフェアトレード商品かの判断はできない。支援教材では、フェアトレードを例とし、先進国の消費の陰で起きている社会問題を生徒に気づかせ、消費者市民社会の形成への理解を促す内容とした。
 前述の高校教員への調査では、活用できる消費者教育の教材が少ないことが課題に挙った。消費者庁「消費者教育ポータルサイト」掲載の教材は近年、充実してきた。このサイトの存在や県作成の教材などの情報が教員に行き渡るようにする、教材を活用した教員研修を行うなどが必要と考えられた。

著者関連情報
© 2017 日本家庭科教育学会
前の記事 次の記事
feedback
Top