日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第60回大会/2017年例会
セッションID: B3-1
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第60回大会:口頭発表
実践的指導力の向上を目指した家庭科教員養成授業プログラムの実践と効果の検討
小清水 貴子*小川 裕子
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抄録

<目的>
2012年8月の中央教育審議会答申「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」では,実践的指導力向上に向けて,教科と教職の架橋の推進や教科教育学の更なる改善,生涯学び続ける教師の育成が課題として示された。教師は省察的実践家(D. Schon,1983)として,教職生活全体を通じて,生涯学び続けることが求められている。教員養成課程において省察的実践家としての素地を醸成するために,理論と実践をつなぐリアリスティックアプローチ(Korthagen et al, 2001)のALACTモデルに着目した。本モデルは経験を学びの出発点として,そこから生じた関心や疑問,問題に焦点を当て,それを理論に効果的に結びつけて専門性を高める方略である。そこで,本研究では,実践的指導力の向上に向けて,ALACTモデルに基づいた授業プログラムを開発・実践し,その効果を検討することを目的とする。

<方法>
まず,授業プログラムをデザインするにあたり, 教員養成課程のカリキュラムを検討した。学習指導を行う経験として教育実習が大きな位置を占めることから,教育実習を教師経験の出発点として位置づけることにした。教育実習で行った研究授業の省察をもとに自己の課題を抽出し,その課題を解決する過程を通して,実践的指導力の向上を目指すことにした。また,学生の学びを深めるために,教科と教職の架橋を意図して,教科専門教員と教科教育教員がティーム・ティーチングで指導にあたることにした。以上をふまえて,授業プログラムのねらいを「学習指導における課題について,教科内容学と教科教育学の双方の視点から分析し,課題の克服に向けた指導の手立ての検討を通して指導力の向上を図る」とした。授業プログラムはALACTモデルに基づいて,全15回で構成した。学習指導上の課題の抽出(第1回),課題の要因分析と解決策の検討(第2回),教材研究と指導案作成(第3・4回),提案する模擬授業の実践(第5~8回),授業改善の検討(第9・10回),改善した模擬授業の実践(第11~14回),まとめ(第15回)とした。授業担当者は大学教員3名(教科専門2名(住居,食物),教科教育1名),附属学校教員2名とした。大学教員3名が全ての回を担当し,提案する模擬授業の実践および改善した模擬授業の実践には,附属学校教員各1名が加わることにした。2015年に家庭科教員養成課程3年生16名を対象に,授業プログラムを実践した。対象者は,受講前に小学校あるいは中学校で3週間の教育実習を終了している。授業プログラムの評価について,プログラム終了後に質問紙調査を実施し,効果を検討した。

<結果>
 授業プログラムの効果を検討した結果を示す。( )内の数値は4件法による回答の評価平均である。「①行為(教育実習)」における「②行為の振り返り」では,「研究授業を分析的に振り返り,省察する力がついた(3.80)」など,学習指導上の課題の抽出を通して省察を深めたことがわかった。「③本質的な諸相への気づき」では,「学習指導で自分に足らないものに気づくことができた(3.40)」など,課題の要因分析や解決策の検討を通して,指導内容に対する自身の知識不足や指導方法の工夫の必要性などに気づいたことが示された。「④行為の選択肢の拡大」では,「学習指導に関する知識を深めることができた(3.27)」など,学習指導に関する知識を深めることができたことが推察された。「⑤試み(模擬授業)」では,「模擬授業では学習指導における課題を克服しようとした(3.13)」などであった。実践的指導力については,「実践的指導力をもっと向上させたいと思う(3.60)」,「本授業プログラムは実践的指導力の向上に役立つ(3.20)」であった。本授業プログラムは,実践的指導力に対する意欲を喚起し,実践的指導力の向上に役立ったことが示唆された。

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