日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第60回大会/2017年例会
セッションID: B3-3
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第60回大会:口頭発表
教職課程の調理実習における切り方演習導入の効果
技能向上の観点から
露久保 美夏*福留 奈美*五十嵐 清子
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抄録

【背景・目的】
 家庭科の調理実習において,教員は適切な調理技能を児童生徒に伝え習得させることが求められる。そこで本研究では,教職課程必修科目の調理実習の授業を履修する大学生が調理を教えること,特に「切ること」を教えることに対する意識を把握するとともに,確かな技能と指導方法を習得するための授業開発を行った。すでに「切ること」を教える苦手意識について1および切り方を教える実演演習(以下,実演演習)を組み込んだ授業実践について2は報告済みである。本報告では,実演演習中の発話や行動記録を分析し,複数回実施した実演演習が大学生の演示技能に与えた影響について検討したので報告する。
※1)五十嵐清子,福留奈美,露久保美夏(2016),教職課程の調理実習における大学生の意識調査―「切ること」を教える苦手意識について―,文化学園大学紀要,47,pp153-163
※2)五十嵐清子,福留奈美,露久保美夏(2016),「教え方」を習得させる効果的な指導法の検討,日本家庭科教育学会第59回大会

【方法】
 平成27年度受講生8名,平成28年度受講生8名,計16名を対象に実施した。
1.導入した活動内容(1)示範中の口頭説明に沿った「5つの切り方ポイント」を白板に掲示(2)平成27年度及び28年度の授業における各12回の調理工程において,毎回2名が演示を行う教員役(実践者),2名が生徒役(評価者)となり実演演習をおこなった(3)ビデオカメラとICレコーダーを用いて,実演演習中の動画と音声を記録(4)実演演習に対する自己評価および他者評価
2.収集データの分析方法(1)実演演習中に録音した音声データから発話を文字化し,実践者の曖昧な表現や戸惑いが見られる表現を抽出(2)実践者が無言でいる時間を計測し,意図的または効果的な無言であるかそうでないかを整理(3)ビデオで撮影した画像記録から,実践者が実演演習中に切り方ポイントや手順を確認した箇所を抽出
【結果】
 学生は,提示された切り方ポイントを確認しながら示範の説明を聞き,教員による実演を熱心に観察してメモを取っていた。そのため,切り方の流れと説明のポイントとなる語句を理解しており,実演演習に積極的に取り入れる姿勢が見られた。
 実演演習の回数を重ねることで「手順確認」を行う回数と,友達を相手にしていると見られる発話や態度が減り,生徒を前に演示をする教師らしい態度への変化がみられた。また,5秒以上発話がない無言の箇所を抽出したところ,ほぼ「切る」作業中であった。「手順確認」や「曖昧,戸惑い」による間はほぼ5秒以内か,「あれ?」などの声が出てしまう傾向にある。切り方によって工程に要する時間は異なるが,回数を重ねるにしたがい切り方や食材の説明を行うようになり,無言は長くても10秒前後になった。ある学生においては,2回目に行った「きゅうり,せん切り」で107秒の間があったが3回目の「にんじん,色紙切り」では最長の無言は11秒で,10秒過ぎには切り方や食材の補足説明をするようになった。なお,教員の示範中の無言時間は10秒が最長で,切りながら注意事項やコツ,食文化や栄養素の話などを交えて作業をしていた。
 以上のことから,実演演習を繰り返すと切り方ポイントを適切に説明できるようになり,教える技能について特別な指導をしていないが,結果的に言葉の選択や伝え方の技能が向上した。実践を繰り返したことと,自己・他者評価を行ったことによって実践者の意識と技能が高まったと考えられる。

【まとめと今後の課題】
実演演習の回数を重ねると,曖昧な発話表現やメモを確認しながら演示をする回数が減少する傾向があった。実践の積み重ねと自己・他者評価を行ったことによって演示に対する意識が向上し,このことが自ずと技能向上に寄与したと考えられる。今後,自己・他者評価の記載内容について詳細な分析を行いながら,効果的な実演演習の実施方法についてさらに検討を進めていく。

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© 2017 日本家庭科教育学会
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