日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第60回大会/2017年例会
セッションID: B3-6
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第60回大会:口頭発表
学校菜園を活用した総合的食教育の実際と課題
日米における実践例からの考察
大森 桂
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キーワード: 食育, 学校菜園, アメリカ
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抄録

研究の背景および目的
 我々人間が生きていく上で、古来、農業は基幹的な産業であるが、今日の我々の食生活は農業等生産の場と乖離しており、農業に対する国民の意識の低下、食料自給率の低迷、食の安全を脅かす事件の発生等、様々な問題が見られる。食育基本法制定から10年以上が経過し、食育の認知度は高まっているが、従来の栄養や健康に加え、農業の視点も取り入れた食育の推進が今後一層重要と考えられる。近年アメリカでは、栽培活動の教育的意義が注目され、エディブルスクールヤード(学校菜園)が普及しつつある。これらのことをふまえ、本研究は、食生活と農業や自然との関わりを総合的に学ぶことができる学校菜園の意義に着目し、学校菜園を活用した食教育の実態を明らかにし、家庭科との連携の在り方について検討することを目的とし、日本およびアメリカにおける先駆的事例について視察調査を行った。
方法
 2015年6月~10月に山形県南陽市内の公立A小学校を複数回訪問し、学校菜園における児童の農作業や学校における食教育に関する活動等を参観した。また、2016年10月~2017年3月にアメリカニューヨーク州においてエディブルスクールヤード推進事業の2つのモデル校を訪問し、敷地内の菜園や調理室、直売所等の視察および学校菜園を活用した食教育に関するワークショップ等を複数回参観した。これらの視察・参観に加え、職員への聞き取り、視察先において入手した資料の分析等を行った。
結果および考察
 山形県のA小学校では、学年の枠を超えた学習チームを作り、地域の人々の協力を得ながら、学校菜園での野菜や果物の栽培、加工食品の製造、地域の朝市での収穫物の販売等、6次産業化を実践的に学ぶ活動を行っていた。学校菜園で収穫した野菜の調理等においては家庭科の時間も活用していたが、畑の管理や収穫作業等のために児童は休日も活動を行っており、保護者や地域の農家等の協力が必要不可欠となっていた。アメリカのニューヨーク市では、NPO団体による学校菜園の推進活動が充実しており、学校への補助金の支給や学校菜園の活用に関する様々なワークショップの開催の他、ホームページにおいて具体的な教材の無償配信等も行っていた。また、学校菜園を活用した食教育の効果についても、大学の研究機関と連携し、客観的な評価が行われていた。菜園は様々な教科の学習に活用されており、2つのモデル校いずれにおいても、子どもたちは敷地内の菜園に自由に出入りでき、作業室や調理室の内装等も、子どもたちが楽しく機能的に学習できるよう工夫されていた。調査の結果、学校菜園の効果的な運用には、用具や水路・日照の確保等物理的な整備の他、人的資源の確保も不可欠であることが明らかとなり、日本においても、今後一層学校菜園の整備に対する支援の充実が望まれる。家庭科および技術・家庭科では、学校菜園を活用することにより、従来の食生活領域における栄養や調理に関する系統的な学習に栽培活動を効果的に連動させ、資源の循環や環境への配慮等も含めたより総合的な食教育を行うことが可能であり、学校における菜園を活用した総合的食教育の基幹教科として、家庭科の果たし得る役割は大きいと考えられる。
 本研究の一部は、平成28年度公益信託家政学研究助成基金により実施した。

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© 2017 日本家庭科教育学会
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