本論では大正期に家庭内労働着が家庭の主婦の装いとして結び付けられた背景について, 労働着・家事労働・生活改良の観点から検討をした.
第一に大正期の社会情勢による家庭生活への影響, すなわち, 女中払底と新中間層の増加により主婦が家事労働の主たる担い手になったことが, 主婦と家事労働着を結びつけたと考える. 家庭における主婦の在り方は, 家事労働をする姿に他ならないのである. 次に主婦の着物について着目した. 着物の着装は三種の姿, 盛装の晴れ着, 街に出て社交や消費行動をする女性の外出着, そして第三が家庭内での日常着である. なかでも常着や普段着といわれた日常の服装は, 家庭内の装いでも身だしなみを整え, 普段着がレベルアップした. 明治の良妻賢母の姿は素服で家事に励むことであったことと比較して, レベルアップした普段着で家事労働を行うならば, それを汚さないための労働着を合わせる必要が生じたのである.
学びの場で女学生が用いた作業着は家事労働着として, 家事行為を適切に執り行う主婦像に結びついた. そして主婦の家事労働着の着用姿は, 大正期に主婦が家事労働の担い手となったことを表す一方で, 新中間層の生活における日常の服装のレベルアップが関与しており, 身ぎれいにして働く新しい主婦像を創出したものでもあったと言えよう.