日本家政学会誌
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高齢女性における衣服の身体適合に関する意識
渡邊 敬子高部 啓子大村 知子
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1997 年 48 巻 10 号 p. 893-902

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抄録

高齢女性の既製衣料の身体適合に関する意識について検討し, 既製衣料の設計上の問題点を明らかにすることを目的に, 1994年7月から9月に, 中部・関東を中心とした地域に住む65歳以上の高齢女性を対象として留め置き法によるアンケート調査を実施した.解析にはからだつきの特徴, 既製衣料の形態や寸法適合, ならびに衣服の着脱動作に関する意識と身体測定値を用いた.高齢女性280名と同様の調査によって得られた中年女性268名分の有効回答を用いて解析を進めた.
主な結果は, 以下のようである.
(1) 身長や太り痩せの意識については, 高齢女性は中年女性に比べて身長を低く, 太り痩せに関してはほぼ妥当に評価していた.また, 体形の補正に関する意識は高くなかった.
(2) 自己のからだつきについては, 両群とも「なで肩」「出腹」「体が厚い」と意識する者の割合が高かった.「背中が丸い」等の姿勢に関する項目はすべて高齢女性の割合が上回り, 両群問で有意な差が認められた.
(3) 既製衣料の「形態適合」では, 両群ともに肩から袖ぐりに関わる項目, 腹部の突出に関わる項目に不満を感じている割合が高かった.また, 衿や衿ぐりに関わる問題上着やスカートの裾が上がるなど姿勢と関わる項目ではいずれも高齢女性の割合が上回り, 両群間で有意な差が認められた.
(4) 既製衣料の「寸法適合」に関しては, 両群ともに丈や体幹下部の周径に関する項目に多く不満が寄せられ, 中年・高齢女性にとって適当なサイズの製品が供給されていないことが明らかになった.また, 高齢女性の「寸法適合」に対する判断力は中年女性に比べて低かった.
(5) 着脱の動作に関しては, 高齢女性では上肢の動きに関連する項目で不都合が見られ, 両群間に有意な差が認められた.
(6) 衣服の身体適合に関する因子分析の結果, 高齢女性では, 順に, 「太さに関する意識と身体め太さを表す因子」「体幹下部の周径に関する寸法不適合の因子」「姿勢が影響する形態不適合の因子」「四肢の回りに関する寸法不適合の因子」「丈の寸法不適合と身長に関する因子」が抽出された.中年女性でも同様の因子が抽出されたが, 「姿勢が影響する形態不適合の因子」は高齢女性特有であった.すなわち, 高齢女性用の既製衣料においては, 寸法設定の改善とともに, 寸法だけでは表現し得ない身体の立体形状の情報を設計に導入することの重要性が明らかになった.

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