総合健診
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総合健診と予防医学的根拠
血圧基準値の科学的根拠
三浦 克之
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ジャーナル オープンアクセス

2015 年 42 巻 2 号 p. 280-286

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抄録

 多くの人口ベースの疫学調査において明らかなように人間集団の血圧値の分布はほぼ正規分布を示す。また、集団における血圧の分布は、地域によって大きく異なりまた時代によって大きく変動するものであり、広い意味で集団の栄養状態を示す生体指標(バイオマーカー)と言える。一方で、成人の血圧値はその後の循環器疾患リスク(脳卒中と心疾患の発症や死亡)と強い関連を示すことが国内外の多くの疫学研究(前向きコホート研究)で明らかにされ、確立した循環器疾患の「危険因子」となっている。関連は、血圧の低い方から高い方に向けて連続的・対数直線的な量・反応関係を示し、閾値は認められない。したがって、「高血圧」の定義は人為的なものであり、また、コホート研究で明らかになった将来の循環器疾患リスクの高さによって決定されている。以上の観点からすれば、集団の血圧値の分布する範囲によって「正常値」を決めることはできない。国際的に見ると高血圧の定義は低い方にシフトし、現在ほぼ世界共通に140/90mmHg以上が「高血圧」と定義されている。現在、日本高血圧学会や欧州高血圧学会の高血圧治療ガイドラインでは、「至適血圧(optimal)」「正常血圧(normal)」「正常高値血圧(high-normal)」「高血圧(hypertension)」という分類が用いられている。「高血圧」の基準は、即、薬物治療開始の基準ではない。至適血圧を超える全ての人に、まず生活習慣修正による血圧低下を促すための基準であることも確認したい。2014年に日本人間ドック学会が発表した血圧の「基準範囲」は、その設定方法に多くの問題点と誤謬があり、即刻撤回すべきものである。

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© 2015 一般社団法人 日本総合健診医学会
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