科学史研究
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東京大学工学部原子力工学科の設立
猪鼻 真裕
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2024 年 62 巻 308 号 p. 341-356

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抄録

 原子力開発史の総体的記述には、人材養成機関である大学の原子力教育課程に関する調査も必要である。そこで本稿では、東京大学工学部に設置された原子力工学科に着目し、当学科がなぜ、どのように設立されたのかを分析する。そして、設立の目的は初期の時点で達成されたのかについて考察する。東京大学は、最も充実した教育体制を整備した大学の 1 つであるが、原子力関係の動きについては他大学に比べて一歩遅れた。その設置は、産業界からの教育改革を求める声や原子力政策の進展などを背景に、文部省が主導する形で行われた。学内事情における様々なレイヤーの要因は、その設置を遅らせた。教育体制の構想は、附置研究所案、綜合的大学院教育体制案、工学部学科新設案と変遷し、その過程で組織の目的も変質していった。原子力関係の科学技術者を養成するという学科設立の目的は達成された一方で、学問の細分化や研究の蛸壺化が進む結果となった。

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