抄録
遺伝子は、個体または細胞の中で系統的に調節を受けながら発現している。これらの遺伝子から発現するタンパク質は、複雑に相互作用して機能していることがわかっている。このようにタンパク質相互作用解析は重要であるにもかかわらず、これまで迅速な解析法は開発されていない。たとえば、細胞内におけるタンパク質の発現・相互作用の検出法として広く利用されている酵母のTwo-Hybrid 法は、迅速さに欠け、タンパクが転写活性、細胞毒性、細胞増殖抑制性を持つ場合は正確な評価ができないなどの問題点が指摘されている。このような背景から、我々は既存の解析法とは異なる新たな手法を考案し、迅速かつ簡便でハイスループット解析に対応したタンパク質間相互作用検出技術を開発した。 本研究は、無細胞タンパク質合成技術を用い、候補タンパク質間でのタンパク質相互作用検出を試みた。まず、転写酵素(RNA polymerase:RNAP)の立体構造に着目して転写活性が失活するように酵素の遺伝子を分割した。つぎに、分割した部位にそれぞれ候補タンパク質(またはペプチド)の遺伝子を連結させた鋳型DNAを構築した。鋳型DNAにはプロモーター配列、リボゾーム結合配列、転写ターミネーター配列を付加し、無細胞タンパク質合成系で融合タンパク質を発現することができる。これら融合タンパク質が発現しても、それぞれ単独では転写活性を持たないことを確認した。ところが、分割したRNAP断片に連結した候補タンパク質間で相互作用が認められた場合においてのみ、転写活性が誘起されることを見いだした。これは、転写活性の回復機構を利用したタンパク質の相互作用解析が可能であることを示唆する結果である。さらに、転写活性の回復により蛍光タンパク質(GFP:Green Fluorescent Protein)をコードするレポーター遺伝子を転写・翻訳させることができれば、得られた蛍光を検出することで相互作用解析ができると考えた。 実験の結果、相互作用が認められない候補タンパク質を連結した融合タンパク質を発現させた場合、GFPのシグナルは確認できなかった。一方、相互作用をすることがあらかじめわかっている候補タンパク質を用いた場合、鋳型DNAを無細胞タンパク質合成反応系に添加してから約1.5時間後にGFPの発現を確認することができた。これらの結果から、迅速かつ簡便なタンパク質相互作用検出システムを構築できたと考える。