日本耳鼻咽喉科学会会報
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原著
IgA腎症に対する扁桃摘出術の臨床効果と予後予測因子の検討
後藤 孝坂東 伸幸吉崎 智貴高原 幹野中 聡原渕 保明
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2007 年 110 巻 2 号 p. 53-59

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抄録

IgA腎症は, 主に耳鼻咽喉科医を中心に, 扁桃病巣感染症の代表的な2次疾患として認識され, 長期予後に対して扁桃摘出術が有効であると報告されているが, どのような症例に対して扁桃摘出術が有効なのか, 現時点ではエビデンスを満たす報告はない. IgA腎症では, 扁桃がIgAの過剰産生に関与していることが推測されている. BAFF (B cell activation factor belonging to the TNF family) は樹状細胞, 単球などから放出され, B細胞上に発現した受容体に結合し, B細胞の活性化, IgAを含む免疫グロブリンの産生に深く関与する. このことから, 扁桃と自己免疫疾患と考えられるIgA腎症を結びつける因子としてBAFF分子が, IgA腎症の予後を術前に予測できるのかどうか, 当科の治療効果とともに検討した. 全症例平均観察期間35.7カ月の予後は, 寛解率39.0%であった. 経時的に治療効果を調べると, 血尿では経過観察期間が長いほど治療効果が良い傾向を認めた. 血清BAFF値は対照群と比較し有意差は認めなかったが, 血清IgA値を補体C3で割った値IgA/C3比では, 血清BAFF値と弱いながら, 正の関係を認めた. 血清BAFF値を, 高値 (3.2ng/ml以上) と低値 (3.2ng/ml未満) の群に分け, 累積の寛解率, 血尿, 蛋白尿の累積の陰性化率について検討したところ, 血清BAFF高値群では血尿の累積改善率が悪い傾向を認めた. 以上から, 扁桃摘出術は血尿の改善効果が期待され, BAFF分子が, 扁桃摘出術を行う上で, 予後との関連性は明らかにならなかったが, IgA腎症の発症において重要な因子になりうると考えられる.

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© 2007 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
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