日本耳鼻咽喉科学会会報
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最終講義
メニエール病の発症機序
―内リンパ嚢研究の視点から―
森 望
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2015 年 118 巻 11 号 p. 1334-1340

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抄録

 メニエール病の病態形成に深く関与していると推定されてきた内リンパ嚢に関する香川大学での基礎研究成果からメニエール病の発症機序について論じた最終講義を要約した. 蝸電図検査での特異な電位の報告からメニエール病に興味を持ち, 異常電位の原因を解明するために内耳基礎研究を始めた. ドイツ留学中に行った内リンパ嚢の電気生理学的研究から, 内リンパ嚢はかなり能動的な作用を有することが考えられるようになったため, 香川大学赴任後の研究のメインテーマとして取り上げて研究を推進した. 内リンパ嚢は内リンパ系の中でも蝸牛, 前庭半規管とは異なる直流電位, 電解質組成を持っており, K+ 輸送が重要な蝸牛, 前庭半規管とは異なり, Na+ 輸送が重要であり, aldosterone に関連したイオン輸送体 (thiazide 感受性 Na+-Cl- 共輸送体), 酵素 (11β-hydroxysteroid dehydrogenase 2: 11β-HSD2) の存在が明らかになったことから, aldosterone により内リンパ調節が行われている可能性が浮上してきた. また, catecholamines が β2 作用にて内耳圧を上昇させることが分かり, メニエール病臨床でよく経験されるストレスによる症状悪化に対する基礎研究的な根拠が出てきたといえる. Aldosterone がメニエール病病態形成に関与している可能性が出てきたので, 従来, 欧米にてメニエール病症例に経験的に行われてきた減塩治療における aldosterone の関与を調べるために臨床研究を行った. 減塩治療が十分に行えた症例では血中 aldosterone 濃度の上昇を認め, めまい回数の減少, 聴力の改善がみられた. メニエール病の病態形成 (内リンパ水腫, 内耳圧上昇) には内リンパ嚢が大きく関与しており, メニエール病の症状, 検査所見が変動することも説明できると考えられる.

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© 2015 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
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