日本耳鼻咽喉科学会会報
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総説
難聴のゲノム医療
松永 達雄
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2019 年 122 巻 1 号 p. 16-21

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抄録

 ゲノムとは遺伝情報の全体であり, ゲノム医療は疾患にかかわる広範囲の遺伝情報に基づいた精度の高い医療である. 難聴の遺伝的原因は極めて多様であり, 従来は一部の遺伝子の情報のみが診療に活用可能であった. しかし, ヒトゲノムの広範な領域を, 迅速かつ安価に解析できる次世代シークエンサーの開発により, 活用できる遺伝情報が著しく広がった. 難聴のゲノム医療は, 遺伝学的検査前の診察と遺伝カウンセリング, 遺伝学的検査, 検査結果の解釈と原因診断, 遺伝情報の説明と遺伝カウンセリング, そして治療への橋渡しで構成される. 遺伝学的検査前の診察と遺伝カウンセリングでは, 十分な情報収集に基づいた検査適応の判断と最適な遺伝学的検査の選択, そして予測される結果の説明が重要である. 遺伝情報の説明と遺伝カウンセリングでは, 複雑な内容を正確に, 分かりやすく伝えることが大切である. 治療への橋渡しでは, 生命の危機や重篤な合併症の可能性, 予防が特に重要である. これには, 他科との連携が必須となる. 遺伝性疾患のゲノム検査では, 原因の候補となる遺伝子の変化 (バリアント) が多数検出される. このため, 米国の臨床遺伝の学術団体 ACMG からバリアント判定のガイドラインが提唱され, さらに NIH の遺伝性難聴専門家委員会により, 遺伝性難聴のガイドライン基準の作成が進められている. これらの国際基準に則した原因診断が推奨される. 国内では, ゲノム医療実用化に向けた「臨床ゲノム情報統合データベース整備事業」が開始され, 東京医療センターは遺伝性疾患 (希少疾患・難病) 領域の遺伝性難聴の拠点を担当している. 当施設では, 患者の診療を最優先する研究が最も診療に役立つ研究成果につながるという方針で, 研究に取り組んでいる. 多くの耳鼻咽喉科医師の協力と先端技術に支えられた研究と医療で, 難聴者の健康で豊かな人生の実現に役立つことを目指している.

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© 2019 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
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