2020 年 123 巻 1 号 p. 16-23
硬性内視鏡に付随するビデオシステムの高精細 (high definition: HD) 化に伴い, すべての行程を内視鏡下に行う経外耳道的内視鏡下耳科手術 (transcanal endoscopic ear surgery: TEES) が広く行われるようになっている. TEES では広角な視野により一視野で鼓室の全体像を把握することが可能であり, さらに内視鏡の接近による拡大視や斜視鏡の使用により死角の少ない手術操作が可能となる. このような利点を持つ TEES は耳後切開不要の低侵襲手術であるが, 経外耳道的な keyhole surgery であり, 原則 one-handed surgery という課題もあり, TEES の利点を十分に発揮するためには適切なセットアップや手術手技の習得が重要である.
当科では直径 2.7mm, 有効長 18cm, 0度, 30度の硬性鏡に Full HD の 3CCD カメラとモニターを組み合わせて TEES を施行している. 上鼓室や乳突洞病変への操作が必要な場合には, 洗浄と吸引を兼ね備えた超音波骨削開器やカーブバーを用いた transcanal attico-antrostomy を行い, 最小限の骨削開で乳突洞までアプローチを行う Powered TEES を行っている. 耳鼻咽喉科で使用される内視鏡には太さや長さのバリエーションがあるが, 直径 2.7mm の内視鏡を用いることで外耳道径の小さい小児症例でも手術が可能であり, 有効長 18cm の内視鏡で powered device を操作するスペースも確保できる. また, LED 光源を用いることで観察部位や鏡筒の温度上昇による組織障害を予防できる. また, TEES では安定した内視鏡の保持を行うための左腕用肘置きが必要である.
本稿では, 以上のセットアップを用いて行う慢性穿孔性中耳炎と弛緩部型中耳真珠腫に対する TEES の基本手技について, 術中写真を提示しながら解説する.