耳科手術を遅滞なく安全に行うために, 正確な解剖知識に基づき, 術前に画像を用いて解剖や病態の把握を行っておくことが必要である.
耳科手術前に検討する主要な画像モダリティはコンピューター断層撮影 (CT) 画像である. また, CT 上の軟部組織陰影の鑑別には核磁気共鳴画像 (MRI) が有用である.
CT 画像では, 常に観察する構造を定め, それらをすべて観察するようにする. 乳突蜂巣や鼓室の蜂巣構造の発育や含気と軟部組織陰影の有無, 耳小骨の形状と連鎖, 位置, 周囲の構造との関係, 顔面神経の走行と顔面神経管の骨の状態を確認する. 中頭蓋窩や後頭蓋窩に関しては骨欠損, 乳突腔に向かっての突出, 流入・流出する血管の有無を確認する. 外耳道上壁と中頭蓋窩との距離によっては外耳道後壁削除型乳突削開を選択せざるを得ない場合も生じる. 内耳に関しては, 蝸牛, 半規管, 前庭水管の奇形の有無と, 瘻孔の有無を見ておく必要がある. S 状静脈洞, 頸静脈球, 内頸静脈孔については, 走行, 周囲の骨の欠損の有無の確認が必要であるが, 頸静脈球については中鼓室に及ぶ高位頸静脈球でなくても, 蝸牛や内耳道との位置関係を把握しておくことは安全な手術の施行に重要である. 後鼓室開放を行う場合は, 外耳道と顔面神経との距離や顔面神経窩部分の蜂巣の有無, 外耳道の後壁の傾きを, 中耳真珠腫やそのほかの腫瘍性疾患においてはその進展範囲と解剖学的構造物との関係を把握する. 人工聴覚器手術や広範囲の側頭骨削開を行う場合は, 骨髄や導出静脈の有無やその位置を予め確認すれば無用な出血を避けることができる.
MRI では, 3D-T2 画像に加えて, 疾患によっては拡散強調画像も検討する. 中耳真珠腫などの腫瘍の性状の把握のほかに, 内耳内の石灰化や線維化の有無や内耳道内の神経の状態を把握することにより, 適切な手術の準備が可能となる.