2021 年 124 巻 7 号 p. 987-997
インフルエンザウイルスに対するヒトの粘膜免疫と全身免疫を検討した. 155名の健常成人を対象に, 鼻腔分泌液中のインフルエンザウイルス特異的 IgA 抗体と血液中のインフルエンザウイルス特異的 IgG 抗体の抗体価を測定したところ, 鼻腔の抗体保有率は約70%で, 血液中の抗体保有率はほぼ100%だった. インフルエンザワクチンが鼻腔および血液中の抗体価に及ぼす影響を調査するため, 初回の検体採取直後にワクチン接種し, その1カ月後に改めて検体採取して抗体価の変動を調査したところ, インフルエンザワクチン接種1カ月後に鼻腔のインフルエンザウイルス特異的 IgA 抗体価は上昇せず, 血液中のインフルエンザウイルス特異的 IgG 抗体価は上昇した. サブグループ解析では, 血液中の抗体価が低い場合に抗体価は上昇し, 高い場合は上昇せず, 頭打ち現象が見られた. インフルエンザワクチンは血液中の IgG 抗体価を上昇させ重症化を防ぐ一方, 鼻腔の分泌型 IgA 抗体を上昇させないため感染を防御する効果が乏しいと考えられた. また以前報告したインフルエンザ感染患者の鼻腔・血液中の抗体価と本研究の結果を比較検討したところ, 健常成人の保有する抗体価は鼻腔・血液中とも低い値から高い値まで幅広く分布していたのに対し, 感染患者の保有する鼻腔・血液中の抗体価は低かった. 鼻腔に保有する抗体価が低い例では高い例に比べ感染のリスクが高まる可能性がある.