日本耳鼻咽喉科学会会報
Online ISSN : 1883-0854
Print ISSN : 0030-6622
ISSN-L : 0030-6622
視覚によらない滑動性追従眼球運動における予測制御
渡邉 暢浩羽柴 基之
著者情報
ジャーナル フリー

1997 年 100 巻 12 号 p. 1450-1458

詳細
抄録

滑動性追従眼球運動 (smooth pursuit eye movement: SPEM) は視覚以外の感覚入力によっても誘発され, 単なるフィードバック制御ではなく, 空間における運動知覚や予測制御など, より高次中枢の関与が明らかにされてきた. しかし, 視覚によらないSPEM (non-visually induced SPEM: NVSPEM) については定量解析された報告はほとんどなく, また予測性との関連を論じたものもなかった. NVSPEMの刺激波として予測性を少なくしたPseudorandom波と正弦波を用い, その周波数特性を視覚によるSPEM (visual SPEM: VSPEM) と比べ, NVSPEMの制御の特徴を明らかにすることを目的とした.
Pseudorandom波は, 周波数に反比例する最大角速度を持つ4つの正弦波 (0.1, 0.2, 0.4, 0.8Hz) を, 位相についてランダムに合成し作製した. 眼前50cmで運動する自己の指先, スピーカからの音源, 赤色発光のダイオードを, 完全暗所下で被験者に追視させた. 眼球運動はDC-ENGで記録し定量的に解析, 次の結果を得た.
1. Pseudorandom波刺激により誘発されたNVSPEMは, 正弦波刺激の場合と比較して低い周波数帯域より低下し, 0.1Hzから0.8Hzの範囲で周波数によらず, 一定の利得を示した. この性質はSPEMと同様であった. Pseudorandom波刺激により予測性を除去した場合のVSPEMならびにNVSPEMの利得-周波数応答が類似していることから, 共通または類似した生理学的機構を介している可能性が示唆された.
2. 位相についてはNVSPEMは, VSPEMが低い周波数領域でほとんど同相であるのと異なり進む傾向も認めた. この傾向は, 正弦波, Pseudorandom波のいずれにおいてもみられ, 視覚フィードバックの有無がこの相違を生じさせると考えた.

著者関連情報
© 日本耳鼻咽喉科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top