日本耳鼻咽喉科学会会報
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神経変性疾患における垂直眼球運動障害について
縄田 安孝古川 朋靖渡辺 道隆加納 昭彦
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1997 年 100 巻 7 号 p. 770-781

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抄録

神経変性疾患の中には, 多彩な眼球運動障害を示すものがあることが知られているが, saccade, pursuit, OKNなどの視性眼球運動, 特に垂直眼球運動の所見を詳細に記載した報告は, 我々が検索しえた範囲内では, 進行性核上性麻痺 (以下PSP) で数編, 脊髄小脳変性症では皆無と言って良い. 今回我々は, PSP及び脊髄小脳変性症35例において, 垂直性眼球運動をENGにて記録, 検討し, これまで水平性眼球運動の検討だけでは言及しえなかった, 各疾患の鑑別診断において以下のごとくの知見を得た. 1) PSPでは, 垂直注視麻痺とともに, saccade, pursuitとも障害が認められたが, saccadeの障害が著明であった. 注視麻痺がない症例でもsaccadeの速度の低下とhypometric saccadeが認められ, 最も早期にこの障害が出現するものと考えられた. VS testでは明所で増強する症例が高率に認められた. 2) オリーブ・橋・小脳萎縮症 (OPCA) では, PSPに比べsaccadeの障害は軽度で, 逆に高率にsmooth pursuitが障害されていた. VS testではPSPと同様に, 明所で増強する症例が高率に認められた. 3) 晩発性小脳皮質萎縮症 (LCCA) は, 他の疾患と比較して, 垂直眼球運動はほとんど障害されていなかった. VS testでは, 他の疾患のように, 明所で増強する症例は認められなかった. 4) 歯状核・赤核・淡蒼球・ルイ体萎縮症 (DRPLA) とJoseph病は, 症例数が少ないため, はっきりとしたことは言えないが, 眼球運動障害は多彩であり, saccade, pursuitともに障害されるが, sacadeはPSPでほぼ無反応になることが多いのに比べ, 何とか指標を追従できた. 5) VSの明所での増強と垂直眼球運動障害との間には有意な相関が認められた.

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