日本耳鼻咽喉科学会会報
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難聴の自覚のない小児機能性難聴の検討
佐藤 斎和田 匡史土屋 乃理子藤崎 俊之高橋 姿
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1998 年 101 巻 12 号 p. 1390-1396

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抄録

難聴の自覚もなく日常生活に不自由も感じない機能性難聴症例の病態を解明するために1982年から1997年までに当科を受診した初診年齢が15歳以下の機能性難聴症例159例295耳を対象に検討した.難聴の自覚のない60例114耳(無自覚例)を難聴の自覚のある99例181耳と対比させて受診年度,受診のきっかけ,合併症状,心因,診断のきっかけ,自記オージオメトリー,観察期間と最終聴力域値,治癒症例の治癒時年齢について検討した.その結果,無自覚例は16年間で増加する傾向はなかった.学校健診で指摘されたのがきっかけで受診した症例が49例(81.7%)で最も多かった.また合併症状として耳痛が11例(18.3%)に,機能性視覚障害が5例(8.3%)に,その他円形脱毛症や退行現象などがみられた.11例(18.3%)に親子関係や学校生活に心因と考えられる事項が聴取され,病態との関連が示唆された.しかし難聴の自覚のある症例と比較すると年齢層が若く,心因がはっきりせず,合併する心因反応も少なく,いじめにあっていた症例もなかった.診断のきっかけは,会話の状態とオージオグラムの域値の矛盾が最も多く48例(80.0%)であった.自記オージオメトリーのJerger分類では,V型が44耳(38.6%)にみられた.純音聴力検査域値が正常になるまでの期間は,24耳が6カ月未満であったが,16耳が1年以上を要した.すなわち今回の検討からは難聴の自覚がなく,日常生活にも不自由のない機能性難聴にも心因の関与が疑われる症例があることが示唆されたが,難聴の自覚のある症例に比べればその程度は軽かった.少数で程度は軽いとはいえ自覚のない症例にも心因の関与する症例が存在するので,症例に応じた適切な耳鼻咽喉科学的,精神医学的な対応を行う意義があると思われた.

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