日本耳鼻咽喉科学会会報
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深頸部膿瘍におけるStreptococcus milleri groupの検出頻度とその病原性
藤吉 達也岡坂 健司吉田 雅文牧嶋 和見
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2001 年 104 巻 2 号 p. 147-156

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抄録

Streptococcus milleri groupは口腔等の粘膜面常在菌ながら, 歯性感染のみならず全身の化膿性疾患の原因となることが重要視されているが, 深頸部感染症の病態へのかかわりについてはほとんど注目されていない. そこで本菌種が検出さた9症例を報告するとともに, 本菌種の検出頻度を調査した. 9症例の原因疾患は, 急性咽頭炎4例, 扁桃周囲膿瘍3例, 歯牙関連疾患2例で, 合併病態として縦隔洞炎または膿瘍3例, 頸部壊死性筋膜炎1例, 敗血症およびDIC1例, 化膿性脊椎炎1例が見られた. 嫌気性菌の病態への関与も示唆されたが, 検出菌はほとんどすべてが本来は口腔内の常在菌とみなされるものであった. 深頸部膿瘍における本菌種の検出率は, 自験例の全27症例中9例 (33.3%) に対し, 文献的に調査した200症例では8.5%に過ぎなかった. 文献例では, 細菌培養陰性例が29.0% (自験例18.5%), 菌種不明のStreptococcus属が31.5% (自験例18.5%) と多かった. 本菌種の培養・同定法の特殊性や溶血性の性状を考慮すると, 一般臨床では本菌種の多くがStreptococcus属やα-streptococcusとして判定されている可能性もある. 以上より, 深頸部膿瘍は口腔内常在菌種の複数菌感染によるものが多く, なかでもS. milleri groupの重要性が示唆された. その重症化因子として, 本菌種が産生する組織破壊酵素や嫌気性菌との混合感染による増悪機序が文献的に考えられる. また, 重篤な合併病態の臨床的特徴を考慮すると, A群β溶連菌による劇症溶連菌感染症やα溶連菌によるショック症候群に見られる病態と同様に, 本菌種が, T細胞を介した免疫応答によって種々のサイトカインを大量に誘導させるような外毒素を産生する可能性も考えられる.

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