日本耳鼻咽喉科学会会報
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上咽頭癌転移関連遺伝子発現と遺伝子治療の可能性
アスピリンは転移を抑制するか
吉崎 智一
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2001 年 104 巻 8 号 p. 791-795

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抄録

上咽頭癌はEpstein-Barrウイルス (EBV) が発癌に関与することが強く示唆されている. 最近, 分子生物学的研究が進み, EBVがコードする膜タンパクのひとつLMP1は, 発癌の過程のみではなく, 癌細胞の転移能亢進にも寄与すると考えられる. LMP1は細胞内シグナル伝達物質NF-κBを活性化して, 転移に必須のステップである基底膜破壊に重要な役割を果たす間質分解酵素9 (MMP9) を誘導する. NF-κBの働きを抑制するものとして, 薬剤ではアスピリン, 細胞内物質ではI-κBがある. 上皮系細胞C33AにLMP1を形質導入するとMMP9が誘導される. これらの物質はいずれもLMP1によるMMP9誘導を転写レベルで抑制し, 試験管内でのLMP1導入C33Aの基底膜破壊能を低下させた. アスピリンは, 消化器癌の発癌予防薬として有望視されているが, 浸潤転移の抑制薬としての有用性も示唆される. I-κBはそのまま野生型のものを用いてもMMP9発現抑制効果は軽微であったが, 遺伝子操作で分解されにくいように変異を入れるとMMP9発現を劇的に抑制した. またシスプラチン薬剤耐性細胞はI-κB遺伝子発現プラスミドを形質導入されると, シスプラチン感受性となる. 今後, 全身の微小転移抑制にアスピリン, 局所の薬剤耐性癌の治療にI-κBを用いた遺伝子治療の応用が期待される.

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