日本耳鼻咽喉科学会会報
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人の舌を超えた味覚センサー
都甲 潔
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2002 年 105 巻 1 号 p. 1-7

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抄録

味覚センサーは, 人の感じる味を出力情報にもつセンサーである. 舌の味蕾にある味細胞をおおう生体膜を構成する成分である脂質を成膜化した脂質/高分子膜をその受容部にもつ. 異なる応答特性の8枚の膜からの電圧出力パターンから味を総合的に判定する. これまでビール, コーヒー, 日本酒, ミネラルウォーター, スープ, 牛乳など多くの食品に適用され, その味の定量化に成功している.
味覚センサーの最大の長所はこれまで不可能であった味の定量化・標準化を可能とした点である. 人間による官能検査と化学分析機器による成分分析結果との間を定量的につなぐことも可能である. 味覚センサーの応用は, まず食品の製造管理工程における異風味検出等の品質保証であろう. 苦味の強い医薬品の味の自動調合へ利用することも可能である.
また味覚センサーの実用化は味覚障害者へ大きな福音となるであろう. 例えば, 集積化マイクロ味覚センサーをお箸につけ, カラーイメージで味質や強度を表示するといった方法, または口内に味覚センサーを埋め込み, 神経へつなぐといったインプラント方式も考えられる.
今後, マルチメディアの振興とあいまって, 味の共通言語 (食譜) を構築することで, 万人が共通の尺度をもって味を語り合う時代が来るであろう. 味覚センサー技術は, 情報技術をもとに人間の医・食・住の向上を目指す総合科学“ヒューマン・インフォマティクス (Human informatics) ”の中核をなす革新技術である. 私たちは今や, 長さや時間の尺度が発明されたあのエジプト時代に相当する食文化の黎明期に入ろうとしている.

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