日本耳鼻咽喉科学会会報
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癌の予後因子を利用し, より効率に癌を殺す遺伝子治療
藤枝 重治杉本 千鶴伊藤 聡久木村 有一都築 秀明須長 寛関 瑞恵山本 英之井川 秀樹齋藤 等
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2002 年 105 巻 3 号 p. 208-214

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抄録

癌に対する遺伝子治療によって, 効果的なアポトーシスを誘導することは, 極めて魅惑的なことである. われわれはその方法を樹立するため, アポトーシス関連因子の予後因子としての重要性を検討した後, 同定しえた因子を用いた遺伝子治療を試みた.
1) 口腔・中咽頭癌においてアポトーシス関連の予後因子を免疫組織化学にて検討した. その結果, bax遺伝子発現は, ステージの進行につれ発現は減少し, 5年生存率はBax陽性群の方が有意に優れていた. 2) 三者併用療法を行った上顎癌においても同様の検討を行った. 治療前の状態では臨床相関は認められなかったが, 術前照射・抗癌剤動注後の本手術時点でbax遺伝子が発現してきた症例に再発例, 癌死症例は有意に少なかった. 以上よりbax遺伝子が予後因子であることが判明した. 3) 頭頸部扁平上皮癌細胞株にbax遺伝子を発現するベクターを導入すると, 耐性抗癌剤 (シスプラチン) に対する感受性が亢進した. 4) 癌を植え付けたマウスにbax遺伝子を遺伝子銃にて遺伝子導入し, シスプラチンを投与すると, シスプラチン耐性であった癌組織も成長しなかった. 無治療, 抗癌剤単独では癌は成長し, マウスは死亡した. 5) cad遺伝子を導入してもシスプラチンに対する感受性が亢進した. 6) マウス癌モデルにcad遺伝子を導入し, シスプラチンを投与すると, bax遺伝子導入同様に癌組織は成長しなかった.
以上の結果より, 口腔・中咽頭・上顎癌に対してbax遺伝子やcad遺伝子を導入し, 抗癌剤を併用すると癌の縮小効果が期待できる. ハイリスクグループ (進行癌) に手術終了時に遺伝子治療を行い, 術後照射や抗癌剤投与を行うと予後の向上に結びつくと思われる.

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