日本耳鼻咽喉科学会会報
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デキストラン鉄の内耳移行に関する実験的研究
佐々木 浩
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1970 年 73 巻 8 号 p. 1293-1303

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抄録

外リンパの生成, 流動, 吸収に関する実験は数多くなされているが, いまだに, 定説をみない. 上記部位を直接, 光顕的に確認するためには, なお多くの解決せねばならない問題点が残されている. 種族差はとよもり, 用いたtracerの比重, 分子量, 溶解性, 組織親和性, 異物反応などの物理化学的性質, 実験手技など考慮されねばならない.
本実験は, 鉄欠乏性貧血の治療剤として, 日常広く臨床に用いられているデキストラン鉄が, 大量に静脈内注射出来ること, 細胞内を生理的に自由に透過出来ること, パラフィン切片作成後, 鉄反応 (ベルリン青法) によって容易に発色されることの利点より, これをtracerとして使用した.
モルモット腹腔内に, デキストラン鉄25mgを連日, 20日間注射した場合, 鉄顆粒は, 蝸牛内組織にあっては, (1) 蝸牛軸血管周囲結合織 (いわゆるPlexus cochlearis) および, (2) 蝸牛小管迷路口部網状組織にのみ特異的に出現する. また, モルモットの脳脊髄液約0.5mlを除去し, これと等量のデキストラン鉄をクモ膜下腔に注入した場合, 24時間後例においては, 鉄顆粒の蝸牛組織内出現は認められないことから, 腹腔内に注入されたデキストラン鉄は, 血行性に上記両部位に出現するものと思われる. そこで, これらの部位について各々, 血管分布, コハク酸脱水素酵素活性を検索した結果, 両者共に外リンパとの密接な関係が認められた. 特に後者にあっては, 脳脊髄液の単なる交通路というよりはむしろ, 外リンパの分泌, 吸収により大きな役割を果しているものと推論された.

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