日本耳鼻咽喉科学会会報
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聴覚の不快レベルに関する臨床的研究
斎藤 瑛
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1971 年 74 巻 1 号 p. 28-46

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抄録

著者は, 以前から正常者及び難聴者について不快レベルの測定を行って来ているが, 通常のオージオメータでは不足することが多い. その為, リオン製オージオメータA-1002DにブースタAE25を接続して出力を増強して検査を行っている. なお, 測定は純音で行っているが, 125Hz, 8000Hz, はブースタを使用してもスケール・アウトすることが多いので, 250Hz, 500Hz, 1000Hz, 2000Hz, 4000Hzを中心にその成績を分析してみた.
従来, 諸家が指摘しているように不快レベルの個人差によるバラツキは, かなり大きいものであるが, 両耳間の差に着目すれば, 充分に臨床的に利用し得るものである.
得られた結論は以下の如くである.
(1) 正常者の不快レベルは個人差によるバラツキはかなり大きいが, その左右耳間の差は15dB以内である.
(2) 感音性難聴では, 例えば, メニエル氏病では比較的低値で, 老人性難聴では高値で不快レベルが現れ, 低音性感音性難聴では, 不快レベルが広い範囲にバラツクというように, 難聴の種類により幾分, 不快レベルの現れ方に差がみられる.
しかし, 一般的に云つて, 気導閾値の差が15dB以下であれば不快レベルの左右差が15dBを上まわることはない.
それ以上の気導閾値の差があれば,
気導閾値の左右差: 不快レベルの左右差
65, 65dB: 20dB以下
70, 75dB: 25dB以下
80, 85, 90dB: 30dB以下
95, 100dB: 35dB以下の関係があると推定される.
(3) この成績をもとに, 聴神経腫瘍や膿幹部腫瘍による (いずれも第一次ニューロン障害) 後迷路性難聴例を検討すると1周波数を1例として90%の周波数が, この基準を上まわる値を示していた.
なお, この場合, 聴力損失が軽度でも不快レベルの上昇が見られるので, 不快レベルの測定は聴神経や脳幹部腫瘍による難聴の早期診断にも役立つ.
(4) 不快レベルの測定値と, バランステストの関係を平衡図の上で見てみると, 殆んどが一致した値を示していた.
(5) 伝音性難聴では, 不快レベルの両耳間の差は気導閾値のそれの2分の1である.
(6) 語音明瞭度と不快レベルの間には, ある程度関係があるが, バラツキが大きいので語音明瞭度は, 不快レベルのみで規定されるとは云えない.
(7) 聴力障害を伴わないhyperacusisの症例の診断に不快レベルの測定が役立つことがある.

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