日本耳鼻咽喉科学会会報
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口蓋扁桃の悪性腫瘍
粟田口 省吾井上 哲
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1971 年 74 巻 8 号 p. 1252-1262

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抄録

研究目的口蓋扁桃に原発する悪性腫瘍はかならずしも稀なものではなく,本邦に於ても諸外国に於ても数々の報告が見られる.
われわれは本腫瘍について,その発生頻度,組織学的所見,転移,治療法,及び予後等につき,現在までに発裏された諸家の報告と比較検討するために,総括的調査研究を行なつた.
研究方法昭和26年より45年までの20年間に,弘前大学陵学部附属病院耳鼻咽喉科に於て診療した口蓋扁桃悪性腫瘍32例を資料とし,これら32例の性別年令別頻度,発病より初診までの期間,初発症状,初診時所見,転移,治療法,及びその予後について調査した.次いで,生検による組織のバラフィン包埋標本より新たに組織標本を作製し,ヘマトキシリン•エオジン,ギムザ,PAS,鍍銀(PAP)などの染色を行い,病理組織学的研究を行なつた.
結果1) 32例のうち,上皮性のものは王2例,非上皮性のものは19例,悪性混合腫が1例であつた.
2) 32例の年令分布は24才から84才にわたり,男子19例,女子13例であった.
3) 発病から初診時までの期間は,大多数1カ月から5カ月までで,初発症状は咽頭痛や嚥下困難が多く,遠隔転移巣に由来する症状が初発症状となつたものはなかつた.
4) 初診時の局所所見としては,主として扁桃の発赤腫脹が見られ,20例はさらに軟口蓋の腫脹や潰瘍形成が認められた.
5) 初診時すでに頸部リンパ節に転移を認めたものは24例(75%)であり,遠隔転移ほ2例であった.
6) これら32例の組織学的分類と臨床進度は,上皮性悪性腫瘍生2例,うち扁平上皮癌7(StageI 1例,StageII 5例,StageI 5例),リンパ上皮腫5例(StageI 1例,StageII 3例,StageIV 1例),非上皮性悪性腫瘍19例,うち細網肉16例(StageI5例,StageII 7例,StageIII 2例,StageI V2例),リンパ肉腫1例(StageII),ホヂキン氏病1例(StageII),形質緬胞腫1例(StageII), 悪性混合腫1例であつた.
7) 治療法は大多数は放射線療法単独であり19例に行われた.その他は放射線と化学療法の併用(8例),もしくは外科的療法と放射線の併用(3例)であつた.
8) 口蓋扁桃の悪性腫瘍は従来,外科療法,照射療法および化学療法が行われてきたが,最近では照射療法および化学療法のみによっても,その治癒率は比較的高く,照射療法を主としたわれわれの例では,5年以上経過を追うことの出来た24例中の5年生存例は10例(41.7%)であり,そのうち8例は放射線単独療法であった.なお,上皮性悪性腫瘍の5年生存率は37.5%であり,非上皮性悪性腫瘍は46.7%であつた.

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