日本耳鼻咽喉科学会会報
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軟骨移植に関する実験的研究
竹林 脩文
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1972 年 75 巻 11 号 p. 1278-1299

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抄録

〔第一編〕
1. 目的
耳鼻咽喉科及び形成外科領域において, 軟骨移植は種々の目的をもって使用され, 自家のみならず同種移植もよく成功することが知られている. しかし, 軟骨移植の基礎的研究は少く, 殊に同種軟骨がよく生着する事実の説明は充分ではない. 著者は, 軟骨内に多量に含まれているムコ多糖が, 軟骨移植片の長期生存に重要な役割を持っているのではないかと考え, 下記の実験を行った.
2. 実験法
体重3kg前後の成熟白色家兎の耳介軟骨を, 他の耳介の皮下に, 移植床となる軟骨に貼り合わせるように自家及び同種移植し, 下記の方法により検討した.
(A) HE染色 (B) PAS反応及び大野法トルイジンブルー・メタクロマジー (C) Boasの方法によるヘキソサミン定量
3. 結果
(A) 自家及び同種移植軟骨は, 組織学的には最高1年まで, よく生着した.
(B) 組織化学的には, 移植初期 (移植後3日乃至2週) に軟骨細胞内のグリコゲン減少及びそれに引き続いて, 基質内のムコ多糖の減少がみられた. これらの変化は6ケ月乃至1年後にはほぼ正常状態に復した.
(C) 生化学的観察では, 軟骨内ヘキソサミン量は, 移植後1週で半減し, 以後は再び増量しはじめ, 移植後1年でほぼ正常量に復した. この結果は組織化学的検索とよく一致した.
(D) 以上から, 同種移植軟骨の長期生存には, 軟骨組織の特殊性, すなわち細胞内の大量のグリコゲン及び基質内の大量のムコ多糖が重要な意義を有するものと考えられた. 殊に, これら物質の, 移植初期における消費が一つの大きな要因となつていると結論した.

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