日本耳鼻咽喉科学会会報
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鼓室成形術に関する臨床的並びに移植免疫学的研究補遺
馬場 廣太郎
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1972 年 75 巻 7 号 p. 727-743

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抄録

古典的鼓室成形術において,外耳道への開放性乳突腔創は,術後hのtroubleが惹起され易く,その処置に多くの工夫がなされてきた.当教室では,骨橋を除表した場合や,再手術例等に,異種保存骨(Kiel bone)による人工骨橋の作成や乳突腔創の補〓をおこなう,所謂meatotympanoplastyの術式を採用し.ている.今回著者は1969年から3年間に亘る当教室のKiel bone使用例100例を対象にして,術後の経時的な臨床各種検査とKiel boneに対する移植免疫学的検索を行ない,ここに報告した.
尚,Kiel boneの補填に際しては,乳突部及び鼓室腔の粘膜と骨病変の肉眼的所見の軽重により,術式をone stage operation methodあるいはtwo stage operation methodcに分けて施行した.
術後の臨床的検査成績のうちまず,レ線学酌観察を,術後2年間に亘り行なつたが,約1年前後でKiel boneは新生骨と置換され,周囲骨組織と同様の濃い陰影を得るに至つた.なお,この骨質置換過程は,再手術し得た症例の病理組織像により確認した.
次に術後の臨床的経過観察を再生鼓膜の状態及び外耳道の変化を中心に2年間追求した結果,74%の症例は良好な経過をとつており,残り26%に何らかのtroubleがあつた.
さらに,この術後成績を手術時の粘膜及び骨病変の病理組織像とを比較検討してみると,粘膜病変が高度であつても,two stage operation methodを採用することにより,術後成績の改善が可能であつた.一方,骨病変が高度の場合は,例えtwo stage operation methodによつても不良例が多かつた.かかる成績から,粘膜病変よりむしろ骨病変が術後成績に大きな影響を与えているという結果を得た.
この様に不良例の際因が骨病変に由来することが明らかとなつたが,今回行なつた術式は,異種保存骨(Kiel bone)を使用しているので当然,移植免疫学的検索が必要である.
本研究では,Kiel bone移植患者30名の末梢血リンパ球培養による幼若化現象及びKiel bone抽出液による遅延型皮内反応を中心とする細胞性抗体の検索を行なつた.さらに体液性抗体の検索をも同時に施行した.リンパ球培養は,Kiel bone抽出液を添加した対象群と,PHA.添加及び無添加の対照群をそれぞれ5疑問培養し,巨細胞化の百分率を算出した.この結果,対象群は無添加群と同様にBlast-like cellの出現がみられなかつた.又,遅延型皮内反応も全例陰性であり,これら成績から,細胞性抗体の産生は否定できた.他方,体液性抗体に関する検索もすべて陰性であつた.この結果Kiel boneに対する移植抗体は産生されないという結論を得た.
これら研究結果にもとついて,中耳は解剖学的並びに免疫学的に特殊部位であろうという推論に達し得た.

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