日本耳鼻咽喉科学会会報
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先天性鐙骨固着症例とその病理組織学的所見について
森満 保中島 恒彦
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1972 年 75 巻 7 号 p. 744-748

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抄録

最近 Otomicrosurgeryの進歩によつて,中耳伝音系の修復の技術は長足の進歩を来た.した,然し先天性鐙骨固着症に対する手術とその術後聴力,更にその病理組織学的検討の報告は比較的に少ない.我々は最近本症例を経験し,その臨床的所見及び摘出した鐙骨の病理組織学的検査を行なつたので報告する.
症例は1G才女児で,左の非進行性難聴,耳介変形を主訴として来院した.右耳は全く正常である.左耳介は耳珠と耳輪部が癒合してやや小さく,外耳道も狭い.手術時所見は鼓室粘膜,鼓索神経,正円窓窩は正常であったが,槌骨,砧骨は一塊となり,砧骨長脚を欠き,鐙骨と連結はなく,鐙骨そのものも所謂monopadal stapesに分類される変形を示いていた.初回手術ではテフロンピストンを用いたコルメラを作つたが聴力改善に成功せず,再手術を行なつた.再手術所見としては,鐙骨が前庭窓に完全に固着し可動性を失なつているのを確認した,窓縁に耳硬化症等を思わせる病的新生物はなかつた.鐙骨を摘出し,結合織片で窓を塞ぎ,テフロンピストンで鼓膜に連結せしめ,58dBより20dBへの満足すべき聴力改善を得た.
摘出した鐙骨を病理組織学的に検索した結果,骨底周囲に軟骨組織を認め,しかもその縁辺部に軟骨膜様腰の存在を認めなかつた事から,この固着は軟骨性固着であると診断した.発生学的に鐙骨はReichert氏軟骨とotic capsuleの軟骨の2つから成るとされており,恐らく胎生期での鐙骨発育が阻害され,鐙骨とotic capsuleの分離が不充分のまま軟骨性癒合が生じたものと考えられる.Otomicrosurgeryの発達によつて本症例のような例が本邦においても激増するものと思われるので,その参考までに報告した.

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