日本耳鼻咽喉科学会会報
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感音難聴耳の音色弁別に関する臨床的研究
小田 恂
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1973 年 76 巻 12 号 p. 1426-1439

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抄録

1. 目的:音の強さの弁別機能検査が,現在日常の臨床検査法として行なわれているのに反して,周波数の弁別機能検査はいくつかの報告例に見られるものの,いまだに日常的に難聴症例に対して行なわれるに至つていない.従来難聴耳に対する周波数弁別機能の検査は主として弁別域値(FDL)の測定としてなされ,刺激音として純音が用いられることが多かつた.しかしながら正常人を対象としたFDLの測定は聴覚心理学上興味のある主題ではあるが,病因や程度のさまざまな難聴耳の場合には個々の症例によつてその値は大きな分散を示すことが予想され,さらに検査装置の繁雑さなどと併せて周波数弁別機能測定の臨床応用は,現在なお確立された段階に至つていない.
本研究の目的は周波数弁別機能検査の臨床応用への道程の第一歩として感音難聴耳の音色弁別能力を測定し,その臨床応用への可能性を論ずるとともに感音難聴の病態を考察することにある.
2. 実験:感音難聴者と聴力正常な若年者および高令者(狭義の老人難聴)を検査の対象とし,感音難聴症例はさらに内耳性難聴,後迷路性難聴(聴神経腫瘍などによる難聴)および純音聴力図上低音性感音難聴を示すグル-プに分けられた.
検査音としては単一共振回路を介して得られた白色雑音が用いられた.検査は低,中,高の三つの音域で行なわれ,各音域で三つの検査音が準備され用いられた.低音域の三つの検査音の共振周波数(ピークの周波数)はそれぞれ450Hz,500Hz,550Hzであり,同様に中音域では1,350Hz,1,500Hz,1,650Hz,高音域では2,700Hz,3,000Hz,3,300Hzであつた.
検査には各音域の三つの検査音中,任意に選ばれた二つの音を用い,ABX法によつて二に音の識別能力が測定された.
3. 結果:各検査音域における音色弁別力には明らかにグループ間の差異が見られた.内耳性難聴の症例では純音聴力が相当悪化している症例が含まれていたにもかかわらず良好な音色弁別値を示し,正常若年者に近い値であつた.低音性感音難聴のグループは内耳性難聴につぎ,聴神経経腫瘍などによる難聴および正常聴力高令者(狭義の老人難聴)は最も悪い値を示した.

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