日本耳鼻咽喉科学会会報
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口唇原発の肉芽腫様悪性細網症の1例
鎌田 重輝木村 瑞雄永井 一徳
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1973 年 76 巻 12 号 p. 1440-1448

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抄録

患者は28才の既婚の女子,生来健康であつたが昭和46年10月ころより上口唇の腫脹糜爛をもつて発症し,鼻の悪性肉芽腫と類似した経過をとり,全身の皮膚および臓器に病変が波及し,剖検によつて悪性細網症と診断された稀有な一症例を経験した.発病時の主訴は上口唇の縻爛を伴う高度の腫脹で,某医に6ヶ月間治療をうけていたが軽快せず当科へ入院した.入院時には上口唇は甚だしく腫脹しその表面は潰瘍に陥り,高熱悪感,咽頭痛,全身倦怠態,食欲不振などあり,これらの症状は初めは一進一退していたが次第に増悪した.入院時より上口唇より再三に亘り組織生検を行つたが確定診断が得られず,細綱肉腫がもつとも疑われた.
治療は極めて困難をきたし,局所の軟膏塗布,抗生剤とステロイギ併用療法,放射線療法,多剤併用化学療法(VEMP),輸血等可及的に行つたが,放射線療法(60Co)に少しく反応を示した他は見るべき効果がなかつた.3ヶ月目頃より全身皮膚表面に拇指頭~梅実大の深い潰瘍形成を伴う硬結が多発し,それらの潰瘍及び原発巣からも度々出血した.47年11月全身状態は更に悪化し,肺及び肝への転移も疑われたが,入院後7ヶ月で気管支肺炎を併発し死亡した.
剖検では肺,心,胸腺,全身皮膚に腫瘤がみられ,喉頭蓋,食道,胃に潰瘍がみられた.肝,脾は腫大していた.このように本症例では皮膚,呼吸器,消化器を初め種々臓器に多数の腫瘍状結節及び潰瘍が認められたのであるが,組織学的には転移した腫瘍とみるよりはむしろ上記諸臓器における既存組織の壊死と異常細網細胞の浸潤及び他の間葉性細胞の肉芽腫様増殖とであつた.これら壊死巣の内部及び周辺では血管内膜下に細網細胞が強く増殖し,ために血管内腔が狭くなり,血栓が生じて内腔が完全に閉塞されたものもみられた.

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