日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報
Online ISSN : 2436-5866
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総説
音声 AI 診断
児嶋 剛長谷部 孝毅藤村 真太郎堀 龍介
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2022 年 125 巻 7 号 p. 1057-1061

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抄録

 われわれは音声のデータを含んだ診療情報について人工知能 (AI) を活用し音声障害の評価を行うシステムを開発・臨床応用することを目指している. 声の性質の評価には知覚に基づく要因も多く含まれるので物理的な要素としてだけでは測定・表現が難しいが, AI は今までにない独創的な問題解決手法を提案できる可能性を秘めている.

 これまでにわれわれは AI を用い, 聴覚心理的評価法の一つである GRBAS 尺度を主観的ではなく客観的に求める手法を報告している. 一つは TensorFlow という Google の提供する機械学習に用いるライブラリを用いたモデルで, 病的音声データを GRBAS 尺度に基づき客観的かつ効果的に分類できることを示した. もう一つは Apple の提供する Create ML を用いた機械学習モデルを使用したもので, リアルタイムに GRBAS 尺度を評価することができる iPhone アプリ「GRBASZero」に組み込み無料で公開している. これらの AI モデルは異なる手法で作られているがその性能に差は認めなかった. 現在は TensorFlow でのモデルをもとに病的音声から病気診断を行うことに取り組んでいる.

 客観的な音声評価に AI は有用な手法でありそれを臨床に応用できる状況も整ってきているものの, 実際に活用するにはまだまだ物足りないのが現状である. いかに精度の高い AI をつくるのかというのは大事ではあるが, 同時に AI をどのように臨床に活用するのか・生活に取り入れていくのかを考える必要がある. 今後は AI による音声評価が健診や救急, 地域医療等において評価・診断支援に活用されていくことが予想される. 日常生活でも音声情報を活用できる場面はたくさんあるため, 身近なデバイスで音声障害を正確に評価することが予防医学につながる可能性があり, 将来的にも意義のある研究であり発展していく分野であると考えている.

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© 2022 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
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